プリミティヴクール

シーカヤック海洋冒険家で、アイランドストリーム代表である、平田 毅(ひらた つよし)のブログ。海、自然、旅の話満載。

「ザ・ナット」、タスマニアンアボリジニーの聖地

2012-01-19 03:27:35 | インポート
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 前回の文章を書いていて、
 アボリジニー繋がりでふと、南半球タスマニアをカヤックで旅した時のことを思い出しました。

 タスマニア北部の海岸線に「タスマニアのエアーズロック」とも言われる
 「ザ ナット」という名の巨大な岩山があります。 
 写真がそうですが、ちょうど海に突き出す岬のような形でとても風格があり、
 その昔には、タスマニアン・アボリジニーの聖地とされていました。
 
 ん、なぜその昔なのか? 今は聖地じゃないのか?
 と思うかもしれませんが、要するに今はもうタスマニアン・アボリジニーは
 この世にいないのです。過去には最大3万6千人いたのですが、
 白人の入植者に滅ぼされ、1876年に地球上から消え去りました。

 で、聖地だけが残っているというわけです。

 ここの外周をカヤックでぐるーっと一周したことがあるのですが、
 その時は結構風波が出ていて断崖に当たるクラポチス(返し波)に悩まされ
 なかなか大変でした。
 しかし海面から見上げる「ザ ナット」はすごくワイルドかつ神聖で、
 畏怖感がありながらも一人ぼっちで漕ぎ進むぼくをどこか見守ってくれているような、
 いいどっしり感がありました。
 そう思っていると、もちろん偶然でしょうが、風波がやんできました。

 そうして無事巡り終え、今度は頂上まで登りました。
 てっぺんで大海原を見つめたとき、ハートにガツンとくるというか、
 グッとこみあげてくるものを覚えました。
 海という世界の広大さが、めまいを伴って、よりリアルに感じられたのです。
 地球を青く彩る海水。人間のスケールをはるかに超えた圧倒的な質量。
 その果てしなさ、寄る辺なさにおいて、宇宙そのものだなと思いました。
 ちっぽけな人間の身体にとっては宇宙も海も一緒、無限の世界です。
 
 目の前に広がる大海原が大宇宙で、
 足元にそびえる「ザ ナット」は大宇宙を旅する宇宙船。
 そして自分自身はこの宇宙船に守られてつつ、一緒に旅している。
 そんな錯覚というか連想が、湧きあがってきました。
 
 で、なぜか、この「守られてる感」っていうのは、
 ニュアンスは違えども、昔のタスマニアンアボリジニーたちも、
 同じように持っていたんじゃないかなあ、と思ったりしました。

 聖地とは、場所独特の空気感を伝えるメディアみたいなもの。
 そこを訪れ、カヤックという超敏感な舟を漕ぐことによって
 時空を超えて空気感を共有し、
 この世から消え去っていったタスマニアンアボリジーの生きた証というか、
 体温のようなものを感じた気がしたのでした。

 かわいそうに、タスマニアンアボリジニーたちよ。
 さぞ辛かったろうよ。
 あんたらがこの「ザ ナット」を愛したように、
 おれもこの「ザ ナット」で感じたことを大事に胸にしまって、生きていくぜ。 
 時々は思い出すぜ、こんな感じでな。


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