先日、熊野古道の大雲・小雲取越えをトレッキングしてきました。
大雲取越え15キロ、小雲取越え15キロ、
計30キロ、1泊2日の行程、小口の集落でテント泊。
雲取というのは、
雲が掴めそうなくらい高い峰々が連続する道であるところから来ています。
那智大社から本宮大社へと抜ける巡礼道ですね。
今回20キロ近い荷物を背負っていましたが、
結構ハードでしたね。
急な上り下りが多く、熊野古道最大の難所として知られていますが、
ここも古来からまつわる様々なエピソードが面白いコースです。
特に那智の滝辺りから急坂を2時間ほどかけて登り切ったのち、
下りに入る「八丁坂」を歩いていると出てくる「ダル」という妖怪の話。
こいつに取り憑かれると全身の力が抜け、動けなくなったり意識を失ったり
死んでしまうこともあるらしい。
しかしメシを食うと回復するとも言われている。
要するに今でいうハンガーノック、シャリバテのことだけど、
人の気配のまったくない無音の山奥、
風に揺られる木々がきしりあう音のみが人の声のように響き渡る
ここを歩いていると確かに、「妖怪」って言った方がサマになるな、
という気がしました。
かの南方熊楠もダルの妖怪にとりつかれ、メシを食って治ったそうです。
またここは「亡者の出合い」とも呼ばれ、死に別れた親兄弟や親せき、
知り合いなどが歩いている姿が見える場所であるとも言われています。
それもまあ、非常に簡単に言ってしまえば、
ハンガーノック状態の中で見る幻覚のことだと思いますが、
きつい登りを終えてようやく下りに差し掛かった時、
誰しも思わずホッとして気を抜きますよね。
疲労と空腹がピークに達している中で、気を張った状態から一気に気を抜くと、
そんな状態になるのはよくわかります。
科学的に言ってしまうと非常にそっけなくなる話を、
伝説的に持ってくる昔の人のイマジネーションは面白いなと思います。
考えると、ここで亡者に出会った幻覚を最初に見たその人自身も、
もうとっくに亡者になっています。
大昔からおそらく何十万人もの人たちがここを歩いただろうけれど、
彼らはその時実際に亡者を見たのか見なかったのかそれは分かりませんが、
過去の人たちはみな既に亡者になっているわけですね。
そしていつかおれも亡者となる。
考えてみると不思議というかはかないというか、
なんともいえない気持ちになりますね。
ここを歩いた人はみんなきっとそんなことを思っていたんでしょうね。
ということはおれも亡者目線で物思いしたってことになるわけです。
移り変わってゆく時の流れと、
ずっと変わらない場所のフィーリング、。
歩きながら結構いろいろ考察しましたね。
たとえば未来に亡者になっているであろう自分自身と、
今歩いているおれ自身とが出会う、
なんていうシュールなシチュエーションとかね。
そう考えると、もっと人生、有意義にやっていかなきゃあかんなと思いました。
と思いました。