蝉が脱いだその抜け殻と同様に、鳴き声も蝉はこの世に捨てているのだ、と作者は言う。言われてみれば、全くその通りである。
さて、となれば蝉に限らず、ほとんどの動物は鳴く。勿論人間だって泣くのだから、つまり、ほとんどの動物は、鳴き声や泣き声をこの世に捨てている。
生命誕生以来、数億年にわたり、様々な動物が鳴いて来たわけだが、一体その声は何処に消えてしまったのだろうか。例えば、動物は死んでも水や酸素、窒素、炭素、鉄などの金属に変化するが、消えて無くなるわけではない。しかし、音は何処へ行ってしまったのだろうか。本当に無くなってしまったのだろうか。それとも、空気中の何処かで今でもかすかに振動し、鳴りつづけているのだろうか。
12トンの松