時刻は11時30分。ここから後編スタート。
川治温泉駅に着くと、ちょうど下り電車がやってきた。しかも、またリバティあいづ号(111号)だ。この区間では特急券なしで乗れるので、ありがたい。とりあえずは、終点の会津田島駅を目指す。
12時24分に会津田島に到着。ここからは、会津若松行きのリレー111号(普通列車)に乗り換える。1両編成のかわいい列車だ。
会津鉄道は(先ほど乗ってきた野岩鉄道も)、車窓からの景色が素晴らしい。今日は移動時間が長くなると思って厚めの本を持ってきたのだが、全然読み進まない。
13時16分、芦ノ牧温泉駅に到着。ここで下車する。
駅から歩いてすぐのところにある「牛乳屋食堂」で、遅めの昼食。平日だし、もう13時半近いというのに、待ち客が5組もいた。すごい人気だ。ただ、回転は結構早いので、20分くらいで案内された。
注文は、会津名物ソースかつ丼と会津ラーメン(半ラーメン)のセットに、牛乳を追加する。ソースかつ丼は、分厚いお肉が4切れ。ソースは甘辛で濃いめ。カツの下にキャベツがたくさんあるので、一緒に食べるとちょうどいい。ラーメンは古き良き醤油味で、すっきりとした味わいだ。どちらも美味しい。このお店が人気なのもうなづける。
食後の牛乳も濃厚で美味しかった。
腹ごしらえも済んだし、さあ芦ノ牧温泉に入ろう、と思ったものの、移動手段がないことに気付く。芦ノ牧温泉の駅から温泉街までは4キロ強ある。タクシーに乗ろうと思っても駅前には1台も停まっていないし、配車アプリも役に立たない。駅前に看板を出しているタクシー会社に電話をしてみても、「(会津)若松から向かうので30分掛かります」とのこと。どこかの宿のお迎えに便乗させてもらうにしても、そんな車が来る気配もない。他の観光客の方にお願いして車に乗せてもらうほどのコミュニケーション能力も、残念ながら持ち合わせていない。歩いてもいいが、往復となるとさすがに時間が掛かりすぎる。
ここは潔く(という割には色々な選択肢を検討したが)芦ノ牧温泉を諦め、目的地を若松の東山温泉に切り替えることにする。ちょうど、下り列車もやってくる時間だ。
上り方面(会津田島行き)の列車もやってきた。おそらく、さっきここまで乗ってきた車両だ。お疲れ様です。
芦ノ牧温泉駅14時10分発の快速AIZUマウントエクスプレス3号に乗り、会津若松へ。私の大好きな列車だ。芦ノ牧温泉は次回に持ち越しとなって残念だが、その分この列車に乗れたのだから良しとしよう。
会津若松の駅で帰りの切符を購入してからタクシーに乗り、東山温泉の「御宿東鳳」に伺う。市街を一望できる展望露天風呂が有名な温泉宿である。私にとっては2度目の東山温泉。前回(去年の春)来た時もそうだったが、この温泉はお湯が柔らかくて、ずっと入っていられる。棚田状の露天風呂から市街地を眺めながら、どんどん身体が軽くなっていくのを実感する。ガチガチになっていた足も随分ほぐれた。
タクシーに乗り、市街地へ戻る。帰りの電車の時間まで余裕があるので、喫茶店「會津壹番館」へ。野口英世が左手の手術を受けた会陽医院の建物を、そのまま喫茶店として使っている(2階は「野口英世青春館」という資料館)。注文は、地元の酒蔵の酒粕を使ったプリンと、会津産はちみつを入れて飲む紅茶。酒粕プリンが濃厚でしっかり甘い。はちみつ紅茶も優しい甘みがあって美味しい。また、残った蜂蜜を持ち帰れるのも嬉しい。ちなみに、随分かわいくデフォルメされた野口英世が描かれたカップは、お土産としても購入できるそうだ。
まだ少し時間に余裕があったので、「昭和なつかし館」という建物に入ってみる。骨董品屋さんの2階に昭和のなつかしい品々を並べている、小さな博物館。見るだけでなく、実際にセットの中に入ることもできて、結構面白い。また、現役のジュークボックスが置いてあって、心躍る。小椋佳さんの「シクラメンのかほり」を流した。元々良い曲だが、この雰囲気の中で聴くとまた一味違う良さがある。帰り際、受付のお姉様に「生まれて初めてジュークボックスに触りました。すごく良かったです」と言ったら、とても嬉しそうに笑ってくれた。
実際にこの部屋の中に入ることができる。
せっかくなので座ってみる。テレビでは、力道山のプロレスの試合が流れている。
このカウンターにも座れる。
懐かしいタバコもあるが、置かれている大半が聞いたこともないタバコだ。一応ささやかながらも煙草のみを続けている身としては、どんな味か気になるところだ。
ジュークボックス。1曲20円というのが時代を感じる。音の響きも独特で良い。
会津若松駅へ向かって歩く。会津若松には歴史のある建物が数多くあって、しかもそれが現役で使われている。歩いているだけでも楽しめる街だ。ただ、日が暮れると一気に冷え込んできた。
道の途中、小さなレストランの前で白人のご夫婦が困ったような顔をして立っている。「どうしましたか?」と声を掛けると、「このお店が何時にオープンするのかわからなくて」とのこと。店先のボードには、「本日お休み」と書かれている。「残念だけど、今日はお休みのようです」と答えると、「明日はやっていますか?」と聞かれる。「ちょっと待ってください」とネットで調べるも、このお店は不定休の様子。不定休という英語(irregular holidays)が出てこなくて、「maybe open,maybe close…」という、他の日本人がいたら恥ずかしいような表現で答える。ただ、意味はきちんと伝わったようで、「じゃあ明日も来てみます。どうもありがとう」と笑顔で去って行った。
(実際のところは別として)外見的に害がなさそうだからだろうか、外国人に限らず、私は普段から道を尋ねられたり、何かを質問されたり、知らない人から声を掛けられることが多い。新横浜には外国人観光客も多いので、週に1回くらいは声を掛けられている。最高で1日に3回という日もあった。自分が海外に行く時は心の準備をしているから(下手なりに)何とかなるが、こういう風に急に必要になった時に英語が出て来ないというのが、いつももどかしい。しかし、例え英語がうまく話せなくても、自分が海外旅行で現地の方に親切にしてもらって助かった体験がたくさんあるので、日本に来てくれている外国人観光客には出来る限り親切でありたいという気持ちが強い。一瞬のつながりではあるが、どんな人と出会うかでその国の印象が大きく変わる、というのが私の実感としてあるのだ。やはり、せっかく日本に興味を持って来てくれたのだから、好きになって帰って欲しい。
また、今日のご夫婦は日本語が喋れなかったわけだが、おそらく頑張って覚えてくれたのだろう、最初の「こんにちは」と最後の「ありがとう」だけは日本語で言ってくれた。そういう心遣いが嬉しい。言語というのはその国の文化と密接に関係するものだから、それを使うことで「あなたの国やその文化に興味を持っています」ということを表現できるのではないかと思う。だから、自分が英語圏以外の国に行くときにも、最低限、基本的な挨拶と「ありがとう」は現地の言葉で言うようにしている。今回の体験を通して、その姿勢はこれからも続けようと思わされた。
そうこうしている内に時間が経ってしまい、急いで駅を目指す。その途中、以前に会津若松に来た際に夕食先の候補に挙げていた割烹の前を通る。一瞬、「もう宿をとって泊まることにして、ここで夕食にしちゃおうか」という誘惑に駆られたが、何とか振り切って歩き続ける。
会津若松駅17時10分発の快速に乗る。719系という首都圏では見られない車両で、しかも「赤べこ」のマークが入っている。終点の郡山までの所要時間は、ちょっと遅れて1時間10分。座席の下から熱がくるタイプの暖房で、ちょっと熱い。この感覚も、最近の首都圏の車両ではなくなってしまった。
郡山から、18時30分発の山形新幹線つばさ154号に乗る。敢えて山形新幹線に乗ったのは、車内販売で米沢の「焼肉ど真ん中」弁当が買えるのではないかと期待したからだった。しかし、残念ながら今日はもう売り切れてしまったらしい。残念。
東京駅で19時56分発の東海道新幹線こだま685号に乗り換え、新横浜へ帰る。
帰宅は20時半前。さすがに、今日のこの行程を日帰りするのは大変だった。しかし、紅葉は本当に素晴らしかったし、食べ物も美味しかった。魅力的な電車にもたくさん乗れたし、温泉でゆっくりもできた。ほぼ即席で組んだプランだったが、体力的にハードだった面を除けば、我ながら良い旅だったと思う。
入浴を終え、夕食にお茶漬けを食べてから、洗濯機を3回(衣類、娘の使う敷物類、スニーカー)回している間に写真の整理をして、日記を書き始める。スニーカーは重曹でのつけおきからやったので、全ての洗濯が終わったのは1時半過ぎだった。布団に倒れ込むようにして眠る。