今月のレコード・コレクターズの特集は、ピンク・フロイドの『狂気』である。何故、今『狂気』なのかは、よく分からん(笑)
特集記事そのものは、別にどうってことのない物だったが、『狂気』がロック史上いやポピュラー音楽史上に燦然と輝く名盤中の名盤である事は間違いない。コンセプト・楽曲・アレンジ・アイデア・演奏・録音・編集、すべてが最高のレベルで結実して比類なき名作を生み出した。
僕がこのアルバムを初めて聴いたのは中学2年の頃だったろうか。まだ、ロックを聴き始めた頃だったせいもあるが、最初に聴いたとき、その圧倒的な素晴らしさに打ちのめされ、聴き終えてもしばらく口がきけないくらいの衝撃を受けた。これ、大げさじゃないです(笑) 最初は、ただ凄いとしか言いようがなかったが、何度も聴くうちに、SEをふんだんに使ったアバンギャルド性とあまりにも美しいメロディとサウンドが交錯する音世界にすっかり魅せられてしまった。どうしたら、こんな妖しく美しく力強く、それでいて尋常でない音楽を作る事が出来るのか。ピンク・フロイドが凄いのか、それとも70年代という時代がこんな奇跡のような音楽を誘発させたのか。
このアルバムの凄い所は、単に内容だけではない。ビルボード誌のアルバム・チャートに741週もランクされ続けた、超ベストセラーだというのも、実に凄い。741週ですよ、741週。実に14年とちょっと、である。『狂気』の発売と同時に生まれた子供が、中学3年生になるまで、チャートに居座り続けたのだ。フロイドのファンや、いわゆるロック・ファン以外の人たちをも巻き込まなければ、14年間に渡ってチャートインし続けることは不可能と言っていい。そう、普段ロックを聴かない一般の人にも受け入れられる魅力が『狂気』にはあったのだ。
『狂気』を名盤たらしめているのは、(当時としては)先鋭的なアイデアにプラスして、そういう分かりやすさがあるからだろう。一部のファンの間で名盤と崇められているのではなく、一般人にもアピールする分かりやすさ。でも、いわゆる売れ筋とは全然違う。『狂気』はアバンギャルドな精神に溢れた、純然たるロック・アルバムだ。今の感覚からすると、内容の良し悪しは別にして、このアルバムが超ベストセラーになった、なんて信じられないだろう。このアルバムに限らず、昔(特に70年代)はそういうアルバムが数多く存在した。売れ筋を追い求めるのではなく、自分たちの感性に従って音楽を作る(もちろん、それなりに大衆にアピールすることは考える)。そして、それが売れる。創造性と大衆性。いつも言ってるけど(笑)、いい時代だったんだなぁ。
そんな古き良き時代のロックを象徴する存在が、この『狂気』なんである。そして、その素晴らしさは、発表から30年以上を経た現代でも、色褪せる事はない。実際、僕も昔ほどではないにせよ、時々はこのアルバムを引っ張り出して聴くのだが、いつでも初めて聴いた時の衝撃が甦ってくる。正にモンスターなアルバム、それが『狂気』だ。邦題もいいね。