
既に皆さんご存知の通り、ボール・マッカートニーが来日公演を行う。4月25日が武道館、27日・29日・30日が東京ドームという事で、もうすくだ。今回は(も?)、東京公演だけなのだろうか。それにしても、ポール・マッカートニーにとって、ビートルズ時代も含めると、6回目の来日公演になるらしい。ソロになってからは5回目という事になるが、そのうち3回が21世紀になってから、というのが凄い。なんか、年齢を重ねるたびにパワーアップしてるような感じ。前回、すなわち2015年の来日公演を見た友人によると、2時間以上にわたり、座りもせず水も飲まずにステージをこなしていたそうで、いやぁとにかく凄い。僕は、それほどポール・マッカートニーの熱心なファンではないし、今回の来日公演も行かないけど、それでも、いつまでも元気でいて欲しいと、願わずにいられない。
という訳で、レコード・コレクターズ先月号は、ポール・マッカートニー特集だった。一位、何回目だろうか?(笑) ま、来日公演が決定した事、数年前から続くアーカイブ・コレクション・シリーズの第10弾として、アルバム『フラワーズ・イン・ザ・ダート』の拡大版が発売される事、が重なったのを受けての特集だろうと思われるが、比較的最近の作品、なんて思っていた『フラワーズ・イン・ザ・ダート』が、実は出てから既に28年が経過している、という当たり前の事実は、ちょっとした衝撃だった(笑) あれから28年か...ポールの初来日公演を東京ドームで見た事を、今さらながら思い出した。年とったなぁ(爆) あの時のオープニングは「フィギュア・オブ・エイト」、知らない曲だったけど、『フラワーズ・イン・ザ・ダート』の収録曲だった。
以前にも書いた事あるけど、僕はポール・マッカートニーは好きだけど、熱心なファンではなく、大ヒット連発だった70年代に比べると、80年代の作品にはあまり魅力が感じられなくて(えらそーに)、ほとんど聴いてない。だから、『フラワーズ・イン・ザ・ダート』も未聴である。発売された当時は、エルビス・コステロという意外なミュージシャンと組んで新境地を開拓、という事で話題になっていた記憶があるが、なにせ熱心なファンではないので(笑)、CDを買ったり借りたりして聴いてみよう、というまでには至らず、要するに、ポール・マッカートニーの新作が出た、という情報だけがあるものの、FMやらMTVやらで耳にする事がなかったので、聴かないままで終わっていたのである。かといって、今回のアーカイブ・コレクション化を機に聴いてみようか、という心境でもない(笑)
この、2010年の『バンド・オン・ザ・ラン』を皮切りにスタートしたポール・マッカートニーのアーカイブ・コレクションだが、これまでに9作がアーカイブ化されており、次はこの辺りではないか、と実は僕は思っていた。


『ロンドン・タウン』と『バック・トゥー・ジ・エッグ』、共に1970年代後半、ポールが絶好調だった時期のアルバムなのであるが、今となってみると、なんか地味な存在になってしまっている。なんでだろうね?(笑) ちなみに、僕はこの2枚共LPで持ってて(数年後に中古盤を買ったのだが^^;)、どちらも好きなアルバムであるのだが、確かに地味かもしれない、とも思う(笑)
『ロンドン・タウン』が出たのは、1978年の夏頃と記憶している。この年の春先、ポールは「夢の旅人」という、スコットランド民謡みたいな牧歌的な曲をイギリスで大ヒットさせていた。なんでも、当時のイギリスでのシングル・レコードの売り上げ記録を更新し、その記録は未だに破られていないとかという超特大ヒットであったのだが、もちろん、当時の僕からすると、「夢の旅人」は、えっ?うそっ?、てな感じの曲であり、これっぽっちも良いと思えなかった(笑) B面の「ガールズ・スクール」の方が、ずっと良かったな。
後に聞いたのだが、ご承知の通り、ポール・マッカートニーはウィングスを率いて、1976年にアメリカツアーを敢行し、大成功を収めている。その模様を記録したライブ盤『ウィングス・オーバー・アメリカ』も全米No.1を獲得するヘストセラーとなった。ウィングスはヒートルズを超えた、とすら言われ、ポールにとっては正に我が世の春であったろう。そんな喧噪が落ち着き、夢だったアメリカ制覇を成し遂げてイギリスに戻って落ち着いてみると、やはり自分はイギリス人なのだ、とそのアイデンティティを再認識して「夢の旅人」に至り、そして『ロンドン・タウン』に至るのだそうな。分かるような分からないような(笑)
でも、まぁ確かに、しばらくアメリカナイズされた作品でヒット連発だったのと比較すると、『ロンドン・タウン』は嘘のように地味というか、静かなアルバムである。シングル・カットされて全米No.1になった「幸せの予感」を含むアルバムなのだが、でもやはり静かな印象。しかし、この「幸せの予感」がまた素晴らしい曲なのだ。僕も当時から大好きで、さすがポール・マッカートニーと一人勝手に唸っていた(笑) ただ、この曲は是非アルバム・バージョンで聴いて欲しい。ベスト盤に入っているDJエディットとかでは物足りない。
個人的には、冒頭を飾るタイトル曲がとにかく好きだ。この曲聴きたさにLPに針を落とし、そのまま最後まで、というパターンだな(笑) ほんと、何度聴いても良い曲と思う。シングル・カットはされたけど、大してヒットしなかったんで、ベスト盤には未収録だが名曲だ。“銀色の雨が汚れたロンドンの街に降り注ぐ”なんてベタな歌詞も、霧の街ロンドンのイメージを誘発する。
この『ロンドン・タウン』は、ほとんどジャケットに写っている3人(ポール&リンダにデニー・レイン)の3人で録音されたそうで、そのせいか、アコギをメインにしたトラッド風の曲もあったりして、全体的にシンプルな印象。ただ、前述の通り、アメリカ臭はほとんど感じられない。どの曲も、うっすらと霧がかかったかのようなウェット感がある。マイケル・ジャクソンがカバーした「ガールフレンド」だって、実に英国風のポップスだ。正に、イギリス人としてのアイデンティティが作らせた傑作と言えるのでは。極上のメロディを持った名曲は少なくて、やっぱ地味だけどね(笑)
で、続いて『バック・トゥー・ジ・エッグ』である。出たのは1979年の夏頃と記憶している。新生ウィングスとしての初アルバムであり、先行シングル「グッドナイト・トゥナイト」もヒットしたし(アルバムには未収録)、イギリスの有名ミュージシャンを多数招集したロケストラも話題となり、発売前から世間は大騒ぎしていたのではなかったかな(笑) ま、それだけ、ポールの一挙一投足に皆が注目していた証である。
と、そんな状況の中で世に出た『バック・トゥー・ジ・エッグ』だが、やや地味だった『ロンドン・タウン』に比べると、新生ウィングスのお披露目というのもあり、バンド・サウンドを全面に押し出した作りになっている。前作同様、極上の名曲はあまりないので(笑)、違った意味で地味ではあるが、勢いはあるし良いアルバムと思うよ。ただ、話題のロケストラは、当時も今も成功してるとは思えない。ロケストラ名義では2曲収録されていて(「ロケストラのテーマ」と「ソー・グラッド」)、参加ミュージシャンも、ウィングスのメンバーに加え、ギターにハンク・マービン、ピート・タウンゼント、デビッド・ギルモア、ベースにジョン・ポール・ジョーンズ、ロニー・レーン、キーボードにゲイリー・ブルッカー、トニー・アシュトン、ドラムにジョン・ボーナム、ケニー・ジョーンズ、といった面々(よく見るとツェッペリンとザ・フーは参加率高い)による豪華なセッションと言えば聞こえはいいが、皆で一緒に演奏してるもんで、誰が何をやってるのか分からない。ジャズのビッグバンドみたいに、名前を連呼しながら順番にソロ交換でもやってくれないと、これだけの顔ぶれを集めた意味がないのではなかろうか。
とはいえ、前述したけど、良いアルバムだ。ラジオのジングルみたいなオープニングから「ゲッティング・クローサー」になだれ込んでいく展開がたまらない。この曲、アルバムからの第一弾シングルだったのだが、やはり大してヒットしなかったので、ベスト盤に収録される事もない、知る人ぞ知る曲なんだけど、個人的はに大好きな曲だ。ポールお得意のメロディアスなロックンロールって感じ。
A面ラストの「アロー・スルー・ミー」もシングル・カットされた。この曲も当時から実は好きなのだが、やはり大したヒットにならず、地味な存在の佳曲な訳だが、数年前に出た『ピュア・マッカートニー』というベスト盤に収録されていたのには驚いた。これによって、熱心なファンでない多くの人たちに、「アロー・スルー・ミー」が知られる事になったと思うと、実に喜ばしい(笑) B面にさりげなく鎮座している、これまたポールお得意のメドレー曲の2連発もいいね。
この後、新生ウィングスとして、このアルバムを引っさげ、1980年についに来日公演が実現するはずだったのだが、ご存知の通り、大変残念な結果になってしまった。日本の音楽史上5本指に入る大事件だったと思う。確かに、平成になってから、ポール・マッカートニーの来日公演は実現したけど、この時のショックを引きずっている人は、まだたくさんいるのではなかろうか。
という訳で、絶頂期の作品であるにもかかわらず、地味な存在になってしまっている『ロンドン・タウン』と『バック・トゥー・ジ・エッグ』、是非陽の当たる場所に戻してあげて欲しい、と切に願うものである。で、いま気づいたけど、この2枚共、収録曲数がLPにしては多い。『ロンドン・タウン』は15曲、『バック・トゥー・ジ・エッグ』は14曲である。なんというサービス精神! こんな所も地味になる要因なのだろうか?(よく分からんぞ)
では、ポール・マッカートニーのファンの皆さま、目前に迫った来日公演を、是非堪能して下さいませ。この2枚の曲は絶対にやらないでしょうけどね(爆)