またしても訃報である。ジャズ界のみならずポピュラー音楽界の最重要人物のひとりと言っても過言ではないであろう、クインシー・ジョーンズが亡くなった。享年91歳。慎んでご冥福をお祈り致します。
たぶん知らない人はいないと思うが、クインシー・ジョーンズと言えばなんたってマイケル・ジャクソンである。マイケルのキャリアを代表する3枚のアルバム、すなわち『オフ・ザ・ウォール(1979)』『スリラー(1982)』『BAD(1987)』のプロデュースを担当し、これらが爆発的ヒットを記録したため、クインシー・ジョーンズはアメリカ・ポピュラー音楽界の重鎮に上り詰め、大きな影響力を誇った。あの『ウィー・アー・ザ・ワールド』のプロデューサーというか製作総指揮を務め、ビデオにも登場していたのは、40年近く前の事ではあるが、まだまだ記憶に新しい。
クインシー・ジョーンズの大きな功績は、ブラコンというジャンルというかスタイルを定着させたことだろう。諸説あると思うが、クインシー・ジョーンズが70年代終わり頃から、新感覚のブラック・ミュージックを確立させたい、と考えていたのは間違いないところだろうし、マイケルはそのための絶好の素材だったであろう。マイケルとクインシーの試みは、まず『オフ・ザ・ウォール』でだいたい成功し、『スリラー』でほぼ完成したと思うが、この時期クインシーは、マイケル以外にもプロデュースしたルーファス(チャカ・カーン)、ジョージ・ベンソン、ドナ・サマーといった人たちの作品や、自身の『愛のコリーダ』などで、着々とブラコンを完成させていった。そして、彼が志向したブラコンは、その後のアメリカ(だけではないと思うが)音楽界において、一大潮流となるのである。
そんなクインシー・ジョーンズであるが、元々はジャズの人だ、というのは今となっては知られてるのかそうでないのか。僕自身は、かなり前からクインシー・ジョーンズの名前を知っているが、それは僕がジャズを聴いていたからではなく、1960年代から70年代にかけて、クインシーが映画音楽も多数手がけていたからである(でもジャズの人だというのは知ってた)。クインシーの映画音楽作品で、最も有名なのはやはり『夜の大捜査線』だろうね。個人的にはスティーブ・マックイーン主演の『ゲッタウェイ』が好きだな。哀愁溢れるハーモニカのメロディがたまりません(演奏はトゥーツ・シールマンスだと言われている)。あと『冷血』とか『ショーン・コネリー盗聴作戦』とかいった作品では、後のクロスオーバーのような感じの音楽になってて、やはり先見性のある人だったんだな、と今さらながら思う。
で、関係あるのかないのか、レコード・コレクターズ(以下レココレ)最新号の特集は、ブルー・ノートである。
ジャズに興味ない人でも、ブルー・ノートの名前は聞いた事あるのではないか。ジャズの専門レーベルである。同じ名前のライブハウスもあるね。そんな、数々の名盤を世に送り出した事で知られ、現在も活動しているブルー・ノートの黄金期(1950年代から60年代あたり)の名盤たちの中から、ベスト100を決めよう、という例によって無謀な企画なんである(笑) ただ、僕なんか、ブルー・ノートもジャズもろくに知らないにもかかわらず、なかなか面白い企画ではあった。
何故面白かったのかというと、随分前の事なのだが、レンタルで『This Is Jazz』という編集盤を借りた事があって、全てではないものの、気に入った曲もあったりして、例えば、アート・ブレイキーの「モーニン」、バド・パウエルの「クレオパトラの夢」、ハービー・ハンコックの「処女航海」、マイルス・デイビスの「マイルストーン」、ソニー・クラークの「クール・ストラッティン」、デューク・エリントンの「シング・シング・シング」といったあたりなのだが、ちょっと興味を覚えて、少し齧ってみた事があるのだ(笑) 前述の曲たちは、その方面ではチョー有名な曲ばかりだそうで、しかも、ブルー・ノートの作品も多かった、というのが、今回のレココレの特集で分かったのだ。多少でも知ってる曲があれば、レビューも理解しやすくなる。
それと、ブルー・ノートに限らず、あの頃のジャズ全般に言えると思うのだが、ジャケット・デザインが秀逸なんである。内容が分からなくても、ジャケット眺めてるだけでも、十分楽しい。今の感覚だと、単なるポートレートじゃんとか文字並べてるだけじゃんとかになってしまうのだろうけど、それだけのジャケットがとにかくカッコいいのだ。
という訳で、なかなかに楽しめたレココレのブルー・ノート・ベスト100だったのだが、それの影響でもないのだが(笑)、最近買ったCDから。
このアルバムは、同じレココレでも、ブルー・ノートではなく、フュージョン特集の時に登場していた。その時のランキングでは10位だったのだが、ずっと興味は持っていて、この度入手して聴いてみた訳だが、その時のフュージョン特集で1位になった、ハービー・ハンコックの『ヘッド・ハンターズ』と、非常に似たものを感じる。というか、同じ方法論で作られたものなのだろう。
ま、とにかく、延々と同じリズム・パターンとコードが繰り返され、その上でサックスやトランペットのソロ合戦、という感じ。反復がグルーブを生む、という事か。だが、この手の音楽で意外なのは、同じ事を延々と続けているだけと言えなくもないけど、それが思ったほど退屈ではなく、最後まで聴けてしまう、という事だろうか。そうなのだ。『ヘッド・ハンターズ』も本作も、僕は割と面白く聴いてしまったのだ(笑) レココレの解説によると、ファンクだけでなく、コールマンやバックマスターの音楽理論、、シュトックハウゼンの電子音楽、テープコラージュやインド音楽等の手法を取り入れて、独自のグルーブを生み出した事が、後の高い評価につながった、とのとことである。よく分からんけど、聴いてて面白いのは確か。
続いては、
こちらは正真正銘、レココレの特集で興味を持ったアルバムだ。ランキングでは26位。解説に、ホーンは参加してるものの、アルバム全編ピアノ以外のソロはない、と書いてあったので興味を持ち、聴いてみた。後の『ヘッド・ハンターズ』とはまったく違う、オーソドックスに感じられる世界だけど、実に素晴らしい内容だ。
ハンコックについては、『処女航海』は以前にブログネタにしたことがある。今回の『スピーク・ライク・ア・チャイルド』の3年程前にブルー・ノートより出た『処女航海』は、不思議な緊張感に満ちたアルバムだったが、本作は、もっとリラックスした感じ。ジャケットの雰囲気そのままに、フレンドリーなムードがあふれているような^^; 曲調も4ビートからボサノバ風まで、バラエティに富んでいて飽きさせないし、火花飛び散るソロ合戦もないので(笑)、ゆったりと楽しめます。こういうアルバムだけど、当時としては決して本流ではなかったのでは(ピアノ以外ソロがない、という事自体当たり前ではなかったと思う)と感じさせたりもして、やはりハンコックは凄い人なんだな、と改めて思ってしまうのであった。他にも聴いてみよう^^
余談だが、70年代から80年代にかけて、海外のジャズ・ミュージシャンが日本のCMに出る事が時々あって、BGMに自分の曲流したりして、それがちょっとヒットしたり、なんて事があったように思う。ただ、そのCMなんだけど、ウィスキーとか洋酒のが多かったように思うのだが気のせいか(笑) ジャズ→大人→ウィスキー、なんて発想であれば、正にその通りと思うけど(笑)