駅への道を歩きながら、あれこれと世間話をする女性2人です。
「私の家も昔は結構裕福な家だったのよ。野原さんのお家ほどではないけれど。あの子の父と結婚してから実家の身代が傾いてしまってね、今では見る影もないけれど…。」
「それでも、肇が幼い頃はまだ余裕があって、結構良い生活をさせてやった物よ。そのせいで病気になったのかもしれないけれど。あの子甘いものが好きでね。」
「それが今ではその日暮らしのよう。こんな長屋のような場所に住んで…。」
小手川君の母はそう言って顔を曇らせました。野原さんはそんなおば様を励まそうと思いました。
「まぁ、内もそうなに裕福とは言えません。祖父の代には結構はぶりもよかったようですが。父は普通のサラリーマンですから。今の資産はそう大したことは無いですよ。」
そんな話をするのでした。
「今ではごく普通の家と変わりません。祖父の時のお金もどの位残っているのか、先々の事は分かりません。」
「だから私も勤めて頑張っているんです。自分の事は自分で賄えるようにと思って。」
野原さんはそう言って小手川君の母の顔を見詰めると、元気付けるように笑いかけるのでした。
そんな野原さんを横目で見るようにして微笑みながら、顔を背けるようにして小手川君の母は独り言のように呟くのでした。
「あなたが、野原さんが、私のようにならなければよいけれど。」
『あの子達にもよく言っておかなければ。』母は決心するのでした。
「三文小説1」…終