「会社の営業課長さんは良い方ですね、内の肇にも親切にしてくださって。」
と、彼女に切り出してみます。そしてちらっと野原さんの顔色を窺いました。
ハッと野原さんは顔色を変えました。小手川君のお母さんはおやっと思います。
この時野原さんは課長の言葉を思い出していました。
課長に注意されていたのに、こんな風に小手川君の家まで来てしまった。彼の母も私が小手川君に近付くことに反対なんだわ。彼女は、暗に彼の母から彼と親しくしている事を咎められているのだと勘ぐりました。彼女は急いで頭の中であれこれと思案しました。
「そうですね、上司としては親切で気の付く方ですね。部下にはありがたい方です。」
などと言って、彼女自身が無難だと思う答えを返しました。
そして小手川君の母同様に、彼女ににっこりと作り笑いをして見せました。