今から思うと、その傘のお店が有った場所は商店の通りになるようです。現在はこのお店や商店通りはもう無くなっているかもしれません。当時その場所は工事中であり、もうこの商店通り自体が取り壊されて無くなっているかもしれないからです。
さて、私はある雨の日にこの傘を購入しました。時は1990年代後半で20世紀の末でした。場所はというと東京の杉並練馬駅(訂正しました)の近隣、そこにあったアーケード通りの商店でした。
傘を購入したくらいですから、その時私は手に傘を持っていませんでした。また、当時の私には頼れる家人がいなかったので、雨の予報には必ず折りたたみ傘を持参していました。そんな私が家から一切傘を持たずに出たのですから、その日の天気予報は雨降り予報では無かった訳です。そして、予報に入って来なかった雨ですから、降っている雨はその内止みそうな気配を感じさせる明るい色を含んだ灰色の雲から降り注いでいました。まとまって降っているように見える雨の量でしたが回復しそうな空模様でした。私は駅から出て直ぐ、もう降っていた雨を避けてこの商店の通りにあるアーケードに入ると、雨宿りしながらアーケードの屋根の庇越しに空を見上げていました。雨の上がり時を推し量っていたのです。雨はまだ少し降り続きそうでした。
そこで私の注意は空から離れ、きょろきょろと水平に見える物に注がれ始めました。私は自分が雨宿りしているアーケード下や近辺に、ある程度の年代を経た家並みが続いているのに気付来ました。それでふと自分の後ろを振り返りそこに1件の傘屋さんが有るのを発見しました。このお店も周囲と同じ年代に建てられたようでした。お店は商店特有の店内がよく見える大きくて透明なガラスをはめ込んだ木の引き戸を有していました。そしてその戸はピタリと閉められていました。私は大きなガラス越しにポンポンと傘が開いて土間に置かれているのにすぐ気付きました。有色で明るく多色の商品が誘目性を持って店内の三和土を装飾していました。つまり傘を開いてその背表は皆こちらを向けて下に置かれていたのです。ポンと花咲く傘の花園、そのお店が一目で傘屋と分かるコーディネートになっていました。