若い方の男性はふふんとニヒルな感じで曖昧に笑って見せました。彼はしばらく無言で俯いていましたが、間も無くふっと気付いたように
「否、そうじゃないよ。」
と、顔を曇らせると沈んだ表情で答えました。「僕にすると彼女がいなくなったのはやっぱり残念なんだ。」
彼のこの答えは質問した男性の予想を大きく上回っていた様でした。その為横にいた男性は面食らってしまいました。
「お前、本当にあの子の事が好きだったのかい。」
驚いたおかげで彼はつい声が大きくなりました。それまでこの2人は目立たない様に道の端、電柱の陰でひっそりと話していましたから、この彼の大声に連れの男性は身を縮め、もう1人の男性の袖を引いて静かにというような身振りをすると声を潜めました。頬を染めた彼は小声になり、「好きなんだよ。」とはにかんで答えました。
さて、この2人の男性は行き成り登場してきたように見えますが、実は今日の地域での子供達の会合、昼間の施設での一件から現在迄を、目立たない様に物陰でずぅーっと見守って来たのでした。彼等は流石に家の中の様子までは窺い知る事が出来ませんでしたが、ある家から…ちゃんという幼子が、血相を変えたその伯父に抱えられ、彼女の母と供に病院へ駆け出して行く様子を目撃すると、すわ何事か、と後を追って行ったのでした。
彼等2人では人目に付くので、年上の男性がこの場所に残り、若い方の男性が1人病院へ忍んで行きました。彼は診察室の外の窓辺、待合室の外と身を屈め、聞き耳を立てて聞こえてくる幼い子に関する情報を集め、その正確な容体を今確認して戻って来たのでした。
「…が亡くなって、やっぱりそうなんだと思うと、僕は非常に残念で確かに可なりの悲しみという感情を感じるんだ。」
彼はそう言うと不覚にも祖父の目前で実際に涙を落とし「暫く1人にしてくれないか。」と、低い声で横の男性に頼むのでした。