妻の体は息子が声を発するごとに傾いて行き、傾いで半身が宙に寄りかかっているような状態でした。その身はふわふわ揺れていました。今にも椅子からバタンと音を立てて床に倒れ落ちそうな雰囲気でした。否、倒れないのが不思議なくらいの傾き方でした。事急を要すると、夫は急いで妻に声を掛けました。
「お前、お白いが剥げているよ。」
その夫の言葉に、なんと呆然自失、夢遊病者の様であった妻の顔に変化が出ました。
彼女はハッ!として気が付くと、ぐっと身を起こし椅子に座り直しました。ここで漸く彼女にも自分の体の傾きの急な事が分かったのです。彼女は自分の体が驚く程に傾いていた事に自身で気付いていなかった事に気付くと、自分の具合の悪さを自覚しました。そして、『よく倒れなかった事。』とほっとして胸を撫で下ろしました。
妻は大丈夫なのかいと尋ねる夫に、ええ、ありがとうと答えました。
「お父さんのおかげで助かりました。」
そう答えながら、未だ夢から覚め遣らぬような妻のやつれた姿に、夫は心配して声を掛けました。
「化粧を塗り直して来たらどうだい。」
そう妻の化粧直しを促してみました。彼のその言葉には、別室で休んできたらどうかという意味が含まれていました。夫にそうこう言われている内に、妻は正気に返って来ました。