「それは残念な事だったなぁ。お前寂しい事だろう。」
祖父は機転を利かせると孫の光君を慰める為にそう言葉を掛けました。光君も「うん」と言葉少なです。今回は彼もあの何時もの嫌味っぽい笑い方とは違う、どこか寂しそうな影のある微笑みを浮かべていました。そして、その後も光君は終始無口でした。
『それで光はあの世界から早く出たがったのか。』
祖父は納得しました。蛍さんの一件が有るとはいえ、孫の研究室の主だった人間がいないのでは、あの世界での救出を待つ事など無意味だったのだなと彼が考えていると、孫が彼に言いました、
「もうそろそろ次の世界が見えて来るよ。」
今度は何時の時代でどんな世界かなぁ、明るく期待を込めたように口にする光君の言葉に、祖父もハッとして、自分のお気に入りの世界を後にした寂寥の感を断ち切ると、気を取り直す様にして身を乗り出し、2人の前方に開きかけている世界を見詰めました。
「あの世界では待っていても誰も助けに来てくれないからなぁ。」
祖父は新しい世界の視野が開けてくると、自分に言い聞かせる様にこう呟きました。