「落ちこぼれ、落ちこぼれ。」
宇宙船の通路を1人歩きながら、ミルは自分の過去に起こった嫌な出来事を思い出していました。それは彼が集団での初等教育を受け始めた頃の事でした。
それまでの彼は、研究者の両親に伴い、あちらこちらの両親の研究対象の星を転々としていました。そんな彼の大人ばかりに囲まれた環境や、仲良しの子が出来てもすぐに別れなければならない身の上を心配した両親は、コンピューターでの個人教育だけでなく、同年代の子や多くの子供達の固定した集団環境の中で、自分達の子、ミルにきちんとした教育を受けさせたいと願うようになりました。そこで彼の両親は彼を父親方の祖父母に預けたのでした。
ミルの祖父母は彼の父の故郷の惑星で定住しており、とうの昔に隠居生活を楽しんでいました。その為快く孫のミルの子育てを了承し、めでたく孫と祖父母の3人暮らしが始まったのでした。祖父母の住んでいた惑星はこの星の近年の風潮、自然回帰の潮流に合わせた自然そのままの様な区域が多く作られていました。ミルは朝早くから夜遅くまで、終日そんな野山を飛び回っていたのでした。
そんな彼の最初のㇾポート提出の日、採点を終えた先生はミルの名を呼び、彼を名指しで「要努力者です。」と指定したのでした。「ミル君、皆のレポートはね、君の数段上の水準だ。質も量もだよ。」もっと学習に励みなさい。そう言われてミルは雷に打たれたようなショックを受けました。ミルは今までの両親との自由闊達な個人の生活とは違う、管理社会の集団に入り周囲と比べられ評価されるという、彼自身の厳しい身の上を否が応でも悟らねばなりませんでした。
この一瞬、あっけに取られていた彼は大きく口を開け、次の瞬間には首を垂れるとがったりと気持ちが落ち沈み、自分が皆より酷く小さく肩身の狭い暗い場所にいる様な錯覚に陥りました。ひやりとした冷気が自分の身にどんと覆い被さったような大きな圧迫を感じ取ったのです。彼の目に映る周囲の彩色は居心地の悪い冷淡な色彩に変わっていました。
この為その日の教育ルーム、所謂この星の子供達が教育を受ける学校としての施設、その中の教室のような学習部屋は彼にとって居た堪れない場所になったのですが、追い打ちをかける様に、その日施設を後にした彼を帰宅する彼と共になった何人かの同年代の子供達が、前述の言葉でやんやと彼を囃子立てたのでした。一頻の囃子声が笑い声と共に駆け出して遠退いてしまうと、ミルは同い年のその子達の冷淡で悪質な行為に呆れ返っていました。