「分かりました。」
自由時間だっていうのに、特殊任務の話なんか持ち出して…。ミルは内心ムッとするのでした。そんな彼の内面の感情を彼の表情から読み取りながら、副長チルは無言でその場を立ち去って行きました。
やれやれ、何であいつはあんなに凝り性なんだろう。優秀は同期生でもかなり優秀な奴なんだがなぁ。『あれでは長の付く高級指揮官向けじゃ無いかもしれないなぁ。』とチルは考えていました。別の候補を探してみるかな、そんな事も考えてみるチルなのでした。『新しい感応者が来るという話だし、その女性士官にも当たってみる事にしよう。』早速新しい候補のプランを練る副長でした。
さて、研究室に残されたこちらはミルです。ケース内に並べていた機材をコンピューターを使って片付け始めました。
「もう少しで結果が出る所だったのになぁ。」
失敗に終わる実験ですが、終りまで見届けられなかった事に後ろ髪を引かれる思いです。この星では理論だけ、実際に実験して検証出来るようになるのはかなり後のことだ。僕なら今、もうすぐにでも結果を出してこの目で見届けられるのになぁ。
ミルはチラッと時間を確認しました。
『全然、問題ない。余裕でこなせる時間じゃないか。』
ミルはニヤリとしました。そして、コンピューターの作業を停めると、再び片付けていた機材を元の通りに組み立て始めました。その後彼は注意深く周囲を見回して、チルの姿の無いのを確認すると、悪戯っぽそうににっこり笑い、椅子に腰を落ち着けて目の前のケース内で起こりつつある反応に集中し始めました。
「ここで感応者が1人いてくれるといいんだがなぁ。」
つい先日再起不能になった、この艦の感応者の額に皺の寄った細い顔を思い浮かべるとミルは溜息をつきました。彼等無しではこの先この実験が失敗に終わるのは目に見えている筈なんだ。そう彼が呟くと、丁度彼の言った言葉が聞こえたかのように目の前のケース内で輝き始めていた光が光彩を失い始め、また元の通りの状態になると、全ての事象には何の変化も起こらなかったという結果をミルは確認したのでした。