Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華 122

2019-12-16 11:11:09 | 日記

 母が私の顔を見て、明るく笑いながら台所に続く廊下に消えてしまうと、私は祖父を案じて彼を見詰めた。

 縁側に残った祖父は思ったより顔色も明るく微笑んでいた。

「あれで、あのねえさんも案外気楽だなぁ。」

彼はそんな事を呟くと、私の母同様気楽な感じで身も軽く座敷に戻って来た。彼は元の様に座布団の上に座ると、先程よりは物思いの風情が濃くなり前と同様壁を見詰めだした。明らかに考え事をしていると見て取れる祖父に、私は彼が何を考えて居るのだろうかと考えてみた。

 『きっと父の事だ!。』私は思った。先程の祖母の言う通り、あの時、私の父が虎や馬の真似をしていたとしても、今から思うと私にはやはり妙な感じがした。子供の私が奇妙に感じるのだから、大人である祖父は尚更だろう、ましてやそんな病の病院が有るなど努々知らない私の事だ、祖母は皆の目から父の真実を隠す為に、家から父を連れ出すだけの目的で外出したのではないか?、そう私は考えた。もし私が思う通りなら、母が言っていたが、父の事は祖父も知っているという事だったしと、それで祖父は父の身を案じて考え込んでいるのだろう、そんな風に幼く推理してみたりしていた。

 祖母に母が話した事柄から、母は祖父の事を良く知っているようだし、先程の縁側の様子でも、舅と嫁の関係の祖父と母は思ったより仲が良い様だ。何時もは祖母がいて、あの2人が2人だけで話す場面を見るのは初めての事だったが、本当の親子の様に親しく話しているようだ。私は今まで知らなかった、祖父と母の義理の親子関係の親密さについて、驚きの初見聞をした気分だった。

 祖父はまたちらりと私の方を見た。私は祖父母の居所にしているこの座敷に立ち止まった儘、自分なりに今日の今迄の出来事を思い返して考え込んでいた。

「何時までそこにいるんだい。」

遂に祖父が私に声を掛けた。

 私はハッと我に返った。何を考え込んでいるんだい、子供らしくもない。そんな事を祖父が私に言うので、私は彼が自分の息子である父の身を案じているのだろうと思い、彼の事を心配して見ていたのだと答えた。

「私が、四郎の事を?。」

祖父は言うと、眉間にしわを寄せて私を振り返った。

「私はあの子の事など心配していないよ。」

「私が心配しているのは母さんの事だ。あんな不肖の息子を持って。」

そんな事を祖父が言うので、私はこの母さんは、私の祖母のことか先程縁にいた私の母の事かと一瞬迷った。『不詳の息子を持つ…、』だから、祖母の事だなと考えて居ると、そんな私に祖父は迷惑そうに言った。

「もう出て行っておくれ、ここは私と母さんの部屋なんだからね。」

そして

「あの子の事は、あの子の嫁であるお前の母さんに全て任せる事にしたよ。」

さっき私達はそう話し合ったんだよ。と、彼はやや心此処に非ず、少々感慨深い感じを交えて静かに言った。


きょうの思い出を振り返ってみる

2019-12-16 11:04:27 | 日記
 
蝶ちょう(1)

 私はどうやら飛ぶ動物が好きな様です。最初に好きになったのは蝶でした。多分私の目線の前をひらひらと飛んで目に捉え易かったからでしょう。鳥を好きになったという記憶がこの時分には有りま......
 

 今日は良いお天気です。3日程お休みしました。体調不調です。もうしばらくお休みしたいので、ポチポチ投稿になると思います。


うの華 121

2019-12-12 09:44:17 | 日記

 「大体、家にはねえさんもいるだろうに。」

そう言うと、祖父は「私が今、家に1人で居る訳じゃない。」と素っ気無かった。祖父は再び視線を壁に戻した。そうしてその儘、客間用に美しく化粧された壁を眺めていた。

 が、何時までも部屋に留まっている私の存在が気になったのだろう。ちらりと横目で私を見たりした。

「ねえさん、そこにいるんだろう。」

彼の顔は壁を向いていたが、声は縁側に向かって掛けているようだ。果たして、縁側からは、ええと小さな声がした。この時、私は縁側に私の母がいるようだと思った。祖父はにんまりした。

「この子に話はしてあるのかい。」

と彼が問いかけると、縁側の声は「未だです。」と答えた。この声は前の声より大きかったので、はっきり女性の声だと私は思った。最初、私は縁側にいる人物は母だと思っていたが、今の声が何時もの気楽でお道化た母の声とは違っていたので、母では無い別の女性が縁側にいるのかもしれないと考え直してみた。

「未だ?、ではお前さんどうする気だい?。」

祖父は縁側にいる女性の答えに驚いた様子で、縁側に顔と注意を向けて身構えた。

「あれにあんな事を言って、この儘ではあれも済まさないだろうに。」

祖父はそう言うと、立ち上がりすかさず縁へ向かって歩み寄った。彼は座敷と縁側を仕切る敷居の上に達するとさっとばかりに障子戸の影を覗き込んだ。そうして少し憤った様な真面目な顔を下方に向けると、その場に座っているらしい人物に何やら小さな声で話し掛けていたが、私の所に迄は皆目彼の声や話の内容が伝わって来なかった。話が進む内に祖父は次第に足を縁側に下ろすと、障子の陰の人物に対してこちら向きに何やら話し出した。

 私にはその祖父の俯き加減の顔が、非難の表情から次第に困惑した表情へと移り変わって行くのを感じた。彼は今や障子の陰の人物に困った様な表情を浮かべ、その内、衝撃を受けたようにハッとすると彼の顔色は白くなった。

 私は自分の目を疑ったが、祖父は確実に勢いを失って元気を失くしていた。彼は障子の陰の人物の傍から後退し、こちらに背を向けると庭の方向を向いた。今や彼の背中はしょんぼりと肩を落としていた。そんな彼に障子の陰の人物はとくとくと何か話し掛けているらしい。

 私は障子の陰の人物が女性では無く男性なのではないかと疑った。そうでなければ、何時も堂々としている一家の大黒柱である祖父がこんなに迄勢いを無くす事があるだろうか?。女の人に何か言われ事たとして、彼がこんなに迄勢いを無くすだろうか?。『否、そんな事は無い祖父の筈だ。』私は思った。

 私が祖父の身を危ぶむ中、祖父は彼の相手に向けて再びこちらを向いた。すると、彼は何とも言え無い様な寂しそうな表情を浮かべていた。見る影もない様な、唇寒しという様な風情だ。すると障子の陰の人物は言葉数を落とし始めた。続いて遠慮がちになったが途切れ途切れに相手は未だ話を続けている様子だった。

 ここから祖父の表情が次第に顔色を取り戻して行った。そして遂には彼は微笑む迄になった。彼の相手も笑っているようだ。ここ迄来ると祖父は私の方に目を向けたりしている。するとひょいっと、障子戸の白い紙の陰から母の笑う顔だけがこちら向きに差し出された。

『母だ!。』

やはり縁側に居た女性は私の母だったのだ。差し出された顔に、私は確認した。

 母の顔は一旦障子戸の影に引っ込んだが、如何やら彼女は立ち上がったらしく、それを穏やかに見詰める祖父の視線も上に上がった。

 母が障子の陰から笑顔で私の前に姿を現すと、母の後ろにいた祖父も微笑んでそれを見詰めていた。しかし、やはり彼が確実に元気を失くしているのが私の目には明らかだった。そんな祖父に対して母は笑顔で大様に見えた。彼女は呑気そうに縁を歩き出すと、何時の様に明るい感じで

「お義父さん、ではそれで。」

と彼に声を掛けた。


今日の思い出を振り返ってみる

2019-12-12 09:41:09 | 日記
 
今日の思い出を振り返ってみる
 美湾 空路シドニーへ向かいます。予定では13:10~17:45まで機内です。単純に計算するとエアーズロックからシドニーまでは4時間35分かかります。日程表によると......
 

 今日は寒くなりそうです。


うの華 120

2019-12-11 11:31:07 | 日記

 「お祖父ちゃんは?、出かけないの?。」

座敷に1人残った祖父に私が言葉を掛けると、

「私が、嫌だよ。」

と祖父は言った。母さんに任せておけばいいんだ。元々は母さんが見ていてああなったのだから。と彼は言った。

「それに、あんな所、私はごめんだからね。」

真面なこっち迄おかしくなってしまう。と言った。それから祖父は私の見ている前で部屋の隅に重ねてあった座布団をごく自然に1枚引いて来ると、それを部屋の中央辺りに無駄のない動きでそろりと敷いた。また彼はその上にさらりと流れよく胡坐を搔いて座った。そしてピンと背筋を伸ばして容姿端麗に座ると、彼は自室で寛ぐには仰々しい様な風情になった。

 私は祖父が部屋の中央に座布団を敷いた時、その位置から、彼は庭を眺めて寛ぐのだと思っていた。庭に面した縁側の障子も、屋外が見える様に開いていた。しかし彼は庭を見るのでは無かった。彼は自身の左側面を縁側に向けると、庭方向から90度方向転換した廊下側の壁に向かって座ったのだ。

 私は自分の予想が外れた事で気落ちした気分になった。それでも気を取り直すと、座敷に1人座す祖父を観察してみた。彼は来客用に設えられたこの家で一番上等な壁、緑青色に塗り上げられたその壁面と対峙する様にして、自身の面を上げると壁土を見詰めていた。祖父はその儘黙っていたが、柳眉の様に目を細めた顔は微笑んでいるように見えた。

 それで私は、家の当主である彼が、息子と妻の二人が共に出かけて行った事で自身の持ち家に一人残り、我が世の春とのんびり気楽にしているのだと考えた。

『自分の家だ、祖父はたまの1人の時間が嬉しいんだな。』

私は思い、微笑んだ。それで安んじて、

「お祖父ちゃん、家で1人残って気楽なんだね。」

と声を掛けた。私は祖父の笑顔にてっきり彼のご機嫌が良いのだと思っていた。

 私の声掛けに祖父の背は強張った。彼の顔は急に曇った。祖父は渋面になったのだ。そして私の方にその重苦しい顔を向けると、何が気楽なんだねと不機嫌な声で言葉を返して来た。