碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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高視聴率だった「報道発ドキュメンタリ宣言」第1回

2008年11月06日 | メディアでのコメント・論評

今週から始まったテレビ朝日の新番組「報道発ドキュメンタリ宣言」。

第1回目の視聴率が22.9%(!)だったということで、「日刊ゲンダイ」から取材を受けた。

この秋の改編で、報道・ドキュメンタリー系の番組が増えた。そうそう、久米宏さんもテレビに戻ってきた。

ただ、ほとんどの新番組が“報道バラエティ”“ドキュメント・バラエティ”といった内容で始まったのに対し、「ドキュメンタリ宣言」は、タイトルもそうだが、いわば“直球”できた感じだった。

放送前、業界内の予想は、大方、視聴率的には苦戦するだろう、というものであり、そうなったとき、テレ朝はどこまで耐えるだろう、といった観測だった。

それが22.9%。これは高い。人気俳優・タレントを投入したドラマでも、最近だと、なかなかとれないほどの数字だ。

この第1回目が取り上げていたのは、長門裕之・南田洋子夫妻だ。題して「消えゆく妻の記憶~今日の洋子は明日いない」。南田さんが記憶障害を抱えており、長門さんが妻を支えている日常に密着していた。

高い関心を呼んだ(数字をとった)理由としては、まず記憶障害や認知症がかなり身近なものとなっていること。夫や妻など、自分に近い人がそういう状態にある人が少なくないということだ。

また、自分たちの父親や母親が、今後、記憶障害や認知症を抱えるようになったら、どうすればいいのか。そもそも、記憶障害や認知症はどんなものなのか。それを知りたいという世代も見たのだと思う。

次に大きかったのは、取材を受けたのが、どこかの誰かではなく、俳優夫婦として知られる長門さん・南田さんだったことだ。

自分たちもよく知っている有名人・著名人、しかも女優として活躍していた頃を知っている人ほど、見ないではいられなかったのだろう。

さらに放送前、長門さんが「徹子の部屋」に出て、南田さんの記憶障害を明かし、二人の生活を真摯に語ったことも、番組の格好の“事前告知”となった。

番組全体の作りとしては、スタジオを置かないでVTR一本勝負にしたことを評価したい。

他の“報道バラエティ”が必ずスタジオをベースにして、司会者やゲストなどがVTRを見ながら語り合うという形をとっているのに対し、禁欲的とも思えるほどシンプルに、まさに直球を投げてきたのだ。

こういう番組も、題材や構成によっては、視聴者がちゃんと受け止めてくれることが分かった。それが大きい。

もちろん、毎回、長門・南田夫妻のようなものを出していくのは困難だろう。しかし、現実の中にテーマを求め、きちんと取材していく番組も支持され得るのだ。ちょっと応援したくなる。

「報道発ドキュメンタリ宣言」のタイトルだが、一般的には「ドキュメンタリー」ということが多いので、「ドキュメンタリ」は少し不思議な気がした。「コンピュータ」も、ある時期までは「コンピューター」だったし、ま、いいか、ってことで、この番組に、しばし注目。