【旧書回想】
週刊新潮に寄稿した
2020年5月後期の書評から
赤塚不二夫『少女漫画家 赤塚不二夫』
ギャンビット 2200円
今年、十三回忌を迎える赤塚不二夫。その少女漫画家としての軌跡をたどるのが本書だ。最初期の『嵐をこえて』をはじめ、貸本時代からの作品が読めるのが有難い。またデビュー当時の絵が手塚治虫に似ていたり、石ノ森章太郎の影響が見られることにも驚かされる。さらに、ヒット作『ひみつのアッコちゃん』の制作に、元・妻の登茂子が大きく貢献していた話など、舞台裏のエピソードも興味深い。(2020.04.07発行)
オリヴィエ・ゲズ:編、神田順子ほか:訳
『独裁者が変えた世界史』上・下
原書房 各2420円
研究者やジャーナリストが分担して描き出す、20世紀の独裁者たちの肖像である。政治警察をフル稼働させ、専制的な「同族集団」ロジックを展開したスターリン。ヒトラーの力の秘密は、国民の心が発するつぶやきに対して「無意識にアクセスするなみはずれた能力」だ。「もとをただせば、彼らは何者でもなかった。もしくは小者であった」と編者は言う。確かに、小者の暴君ほど怖いものはない。(2020.04.10発行)
片岡義男 『彼らを書く』
光文社 2200円
彼らとはザ・ビートルズ、ボブ・ディラン、エルヴィス・プレスリーだ。著者は何枚ものDVDを眺めながら彼らについて語っていく。『エド・サリヴァン・ショー』にも溶け込むビートルズは、元々「中道的な雰囲気を持っていた」。またディランは歌にメッセージはないと言うが、観客は「受けとめている。ディランの歌の歌詞、つまり詩を」。そして、エルヴィスが演じた精彩を放つ役柄とは?(2020.04.30発行)
コロナ・ブックス編集部:編『フジモトマサルの仕事』
平凡社 1980円
漫画家でイラストレーターだったフジモトマサル。本書では、その画業と才能を一望することができる。絵の主なモチーフは熊や狐や猫などの動物だ。しかも彼らは二足歩行で散歩し、本を読み、ピアノを弾くなど極めて人間的な生活を送っている。明らかに異界だが、どこかリアルで、泣きたくなるような懐かしさがある。2015年秋、46歳で亡くなったフジモト。作家たちの寄稿文にその素顔を探す。(2020.04.24発行)
保阪正康『吉田茂~戦後日本の設計者』
朝日新聞出版 1980円
「昭和時代に歴史上語られるべき首相」として、著者は3人の名を挙げる。東條英機、吉田茂、田中角栄。彼らが昭和の重要な「時代相」を象徴的に示しているからだ。戦後の難しい時期、この国の舵取りを担った吉田には「軍事主導の昭和前期の歴史を否定し、明治維新期を継承する」という信念があったと著者は言う。現在にも繋がる功罪を含め、独自の視点で異能の宰相に迫った本格評伝である。(2020.04.25発行)
内田樹:編『街場の日韓論』
晶文社 1870円
緊急事態宣言のために棚上げしていた課題は多い。日韓関係もその一つだ。複雑な「もつれた結び目」を見つめ直す時、参考になるのが本書だ。「歴史意識」に目を向ける白井聡。「文化政策」を入口に考える平田オリザ。「知らないこと」の意味を問う山崎雅弘。そして自身が「先生」と呼ぶ、2人の韓国人との出会いの経験を静かに語るのは編者の内田だ。「結び目」の構造が少しずつ見えてくる。(2020.04.25発行)