碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

【旧書回想】  2020年8月前期の書評から

2022年07月28日 | 書評した本たち

 

 

 

【旧書回想】

週刊新潮に寄稿した

2020年8月の書評から

 

高山正之『日本人よ強(したた)かになれ』 

ワック 1540円

本誌連載「変見自在」の著者による時事評論集。大きなテーマは4つだ。「武漢ウイルス」騒動の元凶として習近平と中国共産党を叩き、日韓の民族的差異を指摘し、アメリカの「日本弱体化計画」を明らかにする。さらに反日ジャーナリズムの蒙昧ぶりにあきれつつ、日本人の覚醒を促すのだ。特に「政権との戦い」を使命とする朝日新聞への舌鋒の鋭さは著者ならでは。報道の本義を問いただす。(2020.07.09発行)

 

神奈川新聞取材班『やまゆり園事件』

幻冬舎 1980円

2016年7月26日未明、神奈川県相模原市の「津久井やまゆり園」で、障害者など45人が殺傷された。犯人は元職員の植松聖だった。本書は地元紙として続けてきた取材を、現時点でまとめ上げたものだ。事件の経緯、植松の人物像、匿名裁判の是非などを丁寧に検証している。中でも事件前に書かれた「犯行予告」が衝撃的だ。障害者の「抹殺」を宣言し、実行するモンスターはなぜ現れたのか。(2020.07.20発行)

 

海堂 尊『コロナ黙示録』

宝島社 1760円

新型コロナウイルスに翻弄され続けた、この国の7カ月間が小説になった。しかもこの未曽有の災厄に挑むのは、「チーム・バチスタ」シリーズの医師・田口や厚労省技官・白鳥だ。医師である著者は、新型コロナに関する正確な情報を物語の中に織り込みながら、現実社会の動きを批評的に絵解きしていく。政権中枢の人々の無定見や迷走ぶりも含め、「ドキュメントノベル」と言うべき問題作だ。(2020.07.24発行)

 

赤木雅子、相澤冬樹『私は真実が知りたい』

文藝春秋 1650円

2018年3月、財務省職員の赤木俊夫氏が自殺した。「森友」関連公文書の改ざんをさせられたことに苦しんだ結果の縊死だ。しかし、政府も財務省も近畿財務局も責任を認めようとしない。赤木氏の死後、上司が全員「異例の出世」を果たした異常性も含め、この事件の「なぜ?」は残されたままだった。赤木氏の妻である著者の手記とジャーナリストによる客観的分析が、この国の闇に光を当てる。(2020.07.15発行)

 

津堅信之『京アニ事件』

平凡社新書

昨年の夏、京都アニメーションのスタジオが放火され、36名が死亡し、33名が重軽傷を負った。この凶悪事件を、アニメ史研究家の著者が多角的に考察する。事件の経緯やメディアの問題だけでなく、京アニの独自性が興味深い。著者が「異化効果」と呼ぶ、日常が違った風景に見えてくる作品群。家族主義と人材育成。そして「聖地巡礼」など新たな楽しみ方の創出。損なわれたものはあまりに大きい。(2020.07.15発行)

 

花房観音

『京都に女王と呼ばれた作家がいた~山村美紗とふたりの男』

西日本出版社 1650円

作家の山村美紗が亡くなったのは1996年だが、現在もその作品を原作にしたドラマをよく見かける。本書は京都在住の女性作家による、「日本のクリスティー」の評伝だ。秘めたるコンプレックスも含め、タブーを排除した内容に驚く。妻の肖像画を描き続ける夫。生涯の同志だった有名作家。好奇な目で見られてきた3人のミステリアスな関係と、ここまで真摯に向き合った書き物は他にない。(2020.07.26発行)