碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

【書評した本】 斎藤文彦『猪木と馬場』

2022年07月16日 | 書評した本たち

 

 

半世紀に及ぶ 2人の「大河ドラマ」

斎藤文彦『猪木と馬場』

集英社新書 1012円

 

昭和のスポーツ界には「宿命のライバル」が何組も存在した。例えば野球の長嶋茂雄と王貞治。大相撲なら大鵬と柏戸。そしてプロレスではジャイアント馬場とアントニオ猪木だ。

ただし馬場と猪木には、他と大きく異なる点があった。それがライバル期間の長さと業界に与えた影響だ。斎藤文彦『猪木と馬場』の読み所もそこにある。

1960年(昭和35年)に同じ力道山門下として同時デビュー。昭和40年代、タッグチーム「BI(馬場・猪木)砲」が火を吹いた。やがて馬場が全日本プロレスを、猪木が新日本プロレスを創設。社長レスラー、またプロデューサーとして激しい興行戦争に突入する。

そんな内幕を、長くプロレス記者を務めた著者は克明に描いていく。中には、76年(昭和51年)6月26日に行われた、猪木VSアリ「格闘技世界一決定戦」の顛末もある。しかも、あの試合が完全な「真剣勝負」だったことを明かすのだ。

猪木が現役を退き、馬場が亡くなったのは平成10年代。その後、いくつもの団体の興亡があり、彼らの弟子たちの栄枯盛衰が続いてきた。半世紀に及ぶ2人の物語は、著者の言う通り「大河ドラマ」である。

「BI砲」以降、このライバル同士はリング上で直接対決したことはない。“世紀の一戦“が形を変えて実現したのは、板垣恵介の漫画『グラップラー刃牙(バキ)』シリーズだ。馬場と猪木をモデルした、マウント斗羽(とば)と猪狩完至が激突している。興味があれば、ご一読を。

(週刊新潮 2022.07.14号)