碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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【新刊書評2022】2月前期の書評から 

2022年07月23日 | 書評した本たち

 

 

 

【新刊書評2022】

週刊新潮に寄稿した

2022年2月前期の書評から

 

小川隆夫『マイルス・デイヴィス大事典』

シンコーミュージック・エンタテイメント 5500円

一人のトランペット奏者をめぐる、厚さ4㌢を超す著。音楽ジャーナリストである著者の情熱はもちろん、これを書かせてしまうマイルス・デイヴィスも凄い。まず第1章のディスク・ガイドが圧巻だ。『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』や『カインド・オブ・ブルー』など全てのアルバムの背景から内容までが論評されていく。続く全曲紹介と関連人物事典も含めて、ファン待望の労作である。(2022.01.07発行)

 

平凡社編集部:編『作家と珈琲』

平凡社 2090円

作家たちが“好きなもの”について書いた文章の奥に素顔が見える。酒、猫、犬に続くシリーズ最新刊だ。巴里のカフェーで熱く香ばしい「コーヒイ」を口にする林芙美子。銀座の喫茶店で「都会生活の気分や閑散」を思う萩原朔太郎。本に夢中でコーヒーがさめてしまう植草甚一。「喫茶店人生」を回想する小田島雄志。茨木のり子の詩「食卓に珈琲の匂い流れ」も読める、贅沢なアンソロジーだ。(2022.01.19発行)

 

鈴木 浩

『小学生が描いた昭和の日本~児童画五〇〇点 自転車こいで全国から』

石風社 2750円

50年前、全国各地の小学校を自転車で回る青年がいた。小学生の絵を集めて児童画展を開くためだった。そして開催後も大切に保存していた作品を、初めて一冊まとめたのが本書である。運動会、友だちとの遊び、家の中、そして町の風景。色彩も鮮やかに蘇るのは、当時の子どもたちが体験していたリアルな日常だ。半世紀を経て変わったこと、変わらないもの。その両方が見る者の記憶を揺さぶる。(2022.01.20発行)

 

忍澤 勉『終わりなきタルコフスキー』

寿郎社 2860円

「映像の詩人」と呼ばれるソ連の映画監督、アンドレイ・タルコフスキー。『惑星ソラリス』『ノスタルジなどで知られるが、作品はいずれも難解であることが定説となっている。著者は、過去の論者たちが数少ないスクリーン体験しか持てなかったことを踏まえ、映像ソフトによる徹底解読で「難解伝説」に挑む。作者の意図や技巧。さらに「水」や「廃墟」といったモチーフの意味も見えてくる。(2022.01.15発行)

 

藤倉 大『どうしてこうなっちゃったか』

幻冬舎 2090円

著者は英国に住む、44歳の現代音楽作曲家だ。中学卒業後、海外で武者修行。英国の大学院で博士号を取得し、名高い作曲コンクールで史上最年少の第1位。日本でも尾高賞、芥川作曲賞などを受賞している。だが、単なる優等生ではない。本書は自由かつ大胆に語った「早すぎる自伝」だ。日本人離れというべき疾風怒涛の過去も、コロナ禍で「天才だけど困窮」の現在も、まとめて笑い飛ばしていく。(2022.01.25発行)

 

小林信彦『日本橋に生まれて――本音を申せば』

文藝春秋 2420円

1998年の連載開始から約四半世紀。『週刊文春』の名物コラム、そのシリーズ最終巻である。二部構成の前半は人物篇だ。渥美清や植木等など、ゆかりの深い17人が登場する。伊東四朗について「<重厚さ>と<軽薄さ>のあいだに漂っている人」と書けるのは著者だけだ。連載最終回の表題は「数少い読者へ」。自分がヒッチコックに会った「数少い人」と呼ばれ、嬉しかったことを明かしている。 (2022.01.30発行)