碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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『オールドルーキー』 が描く、「第二の人生」のつくり方 

2022年07月04日 | 「北海道新聞」連載の放送時評

 

 

「第二の人生」のつくり方

 

6月26日に始まった、日曜劇場「オールドルーキー」(TBS―HBC)。主人公の新町亮太郎(綾野剛)は37歳の元サッカー日本代表選手だ。J3の「ジェンマ八王子」に所属し、代表への返り咲きを目指していた。

しかし突然、チームは解散となり、思いもしなかった現役引退に追い込まれる。このドラマは、かつて“ヒーロー”だった男が“普通の人”へと転身していく物語だ。

引退したスポーツ選手と聞けば、6月まで放送されていた「未来への10カウント」(テレビ朝日―HTB)を思い出す。木村拓哉が演じたのは、世捨て人のように生きていた元ボクサーだ。高校ボクシング部のコーチとして生徒たちを鍛えるうちに、自身も生きがいを見つけ、心の再生へと向かっていった。

新町の自分探しも容易ではない。初回ではハローワークに通い、いくつかの一般的な仕事にトライしていたが、いずれも無理があった。初めて知る、世間の厳しい現実。新町の場合、その転職を阻むものの一つが、忘れられない“過去の栄光”だ。

結局、受け入れてくれたのが「スポーツマネジメント」の専門会社である。対象は現役のスポーツ選手。競技面ではトレーニング環境を整え、ビジネス面ではイベントや宣伝活動、CM契約などをフォローする。長年身を置くスポーツの世界とはいえ、新町にしてみれば表舞台から裏方への大転換だ。

現代社会は、かつてのように終身雇用が一般的だった時代とは大きく異なる。2度目、3度目の転職も珍しいことではない。その意味で、主人公が「第二の人生」を模索していくというテーマには普遍性がある。さらに新しい仕事や人間関係は、当人だけでなく家族にも影響を与えていく。本作は異色のスポーツドラマであると同時に、主人公を支える家族のドラマでもありそうだ。

主演の綾野だが、近年はハードボイルドな作品が多かった。さまざまな社会問題を背景とした事件を追う、警視庁機動捜査隊員を演じた「MIU404」(TBS―HBC)。司法の手が届かない場所にいて悪事を働く者たちを、謎の集団が罰した「アバランチ」(カンテレ・フジテレビ系―UHB)などだ。

今回、綾野は元トップアスリートならではの特性と、普通の人としての愛すべき情けなさの両方を、絶妙のバランスで演じている。それを支えているのが、NHKの大河ドラマ「龍馬伝」や朝の連続テレビ小説「まんぷく」などを手掛けてきた、福田靖のオリジナル脚本だ。

(北海道新聞「碓井広義の放送時評」2022年07月02日)