内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

光なくとも歩め ― ある学生のための祝杯

2013-11-29 05:40:00 | 雑感

 昨晩は零時まで修士二年生のニつのインターシップ・レポート読み。疲労による睡魔に襲われ、どうにも読みきれなかったので、今朝(28日)は午前5時に起き、出講前に読み上げる。一つは見事なフランス語で、インターシップ制度そのもののフランス社会における現実問題を剔抉。もう一つは、どう考えてもちゃんと見直したと思えないお粗末な誤りと意味不明な表現が散見される代物。正直、途中からはページあたり数行以上読む気になれなかった。ただ、この後者のレポートの筆者である女子学生は人あたりが抜群にいいのである。それが証拠に、インターシップ終了直後に当の研修先企業から正式採用を前提とした二つのポストのオファーを受けている(おめでとう!)。
 今日の通常授業の後、この二つのレポートの口頭試問にドイツ人とアメリカ人の同僚とともに臨む。前者のレポートの筆者である学生には、ドイツ人の同僚も私も特別な思いがある。というのも、一昨年五月、修士課程の外部志望者の願書を審査している段階で、その学生の書類には、学部は理学部で物理学を履修とあるだけで、日本語能力についての何らの証明書類が添付されていなかったので、私は登録不許可という意見書を提出。それがそのまま採用され、当の学生には不合格通知が送付された。ところがそれを受け取った当の学生から、自分の日本語能力を審査する面接を希望する嘆願メールが大学宛に届いた。修士一年の入学許可については書類審査のみで、面接はしないのが原則。修士課程責任者のドイツ人同僚が、こんなメールが来たけれど、どうするかと私に聞いてきた。私もそれまでに例のないケースだったので少し戸惑ったが、本人がそこまで言うのならば、二人でその学生を面接しようと提案、その学生に召喚状を送る。その時点では、私のつもりとしては、その学生に面接の席で引導を渡すつもりでいた。ところが、面接してみて、驚いた。まったく独学であると学生自身がいう日本語で、私のすべての質問にきちんと答えたのである。学生を面接会場から退出させた後、私はその日本語のレベルの高さについてドイツ人同僚に説明し、私の前言を撤回、この学生を是非受け入れようと進言した。この同僚は私の言を信用してくれて、まったく例外的な措置だが、不合格通知を破棄し、入学を許可したのである。
 その学生は、私たちの取った措置がきわめて異例であることは十分理解していたし、そのことについて入学直後から感謝の気持を繰り返して私たちに示していただけでなく、成績はすべての科目についてすべてトップクラス、すべての教員から高い評価を受けていた。その彼がこうして二年間の修士課程を優秀な成績で終え、しかも彼自身の希望に沿ったオファーも受け、この12月から正社員として海運会社で働くことも決まっていることを、私は心から祝福したい(乾杯!)。