ルイ・ラヴェルの主著は、四巻からなる La dialectique de l’éternel présent [永遠の現在の弁証法、あるいは、現在する永遠の弁証法、これらどちらの訳も可能で、実際、ラヴェルはこの二重の意味を込めてこのタイトルを選んでいる] であるが、最終巻として書かれる予定だった De la Sagesse [叡智について]は、著者の早逝によってついに書かれないままに終わってしまった。しかし、このテーマについてラヴェルは他の多数の著書の中で触れており、それらを合わせ見ることで、ラヴェルの〈叡智〉についての思想の、少なくともその輪郭を知ることはできる。
そのような意図から、未刊のノートからの関連箇所も併録することで編まれた一書 Louis Lavelle, Chemin de sagesse, édition, introduction et notes par Bernard Grasset, Paris, Hermann が今年刊行された。ルイ・ラヴェル協会の会長である Jean-Louis Vieillard-Baron が序文を寄せている。130頁ほどの小著で簡素な装丁だが、それがまた内容に相応しい。序文の後に編者による30頁近い解説が置かれ、そこには〈叡智〉がラヴェル哲学の最終目的であったことが丁寧に示されている。収録されているラヴェルのテキストは、5部に分けられていて、第1部は、代表的な著書からの抜粋、第2部は、ラヴェルが1930年から1942年まで月一回のペースでフランスの夕刊紙 Le Temps 書き続けたコラムからの抜粋。ここまでが直接的に〈叡智〉をテーマにしているテキスト群。第3部には、同テーマに密接に関連する問題を扱ったテキストが集めてある。第4部と第5部は、未刊のノートからの抜粋で、前者は「褐色ノート」と命名されたノートから、後者は〈叡智〉と題された一束の草稿からである。
ラヴェルの生前に公刊されたテキストは、すべて隅々まで注意深く制御された文章で、感情を吐露したような文章は皆無に等しいのだが、未刊のノートの中には、公の目に触れることを意識して彫琢される前の文章も収録されており、それがラヴェルの肉声を伝えるかのようで、編者も述べているように、それを読むとラヴェルをより身近に感じることができる。その編者による解説は次の一文によって結ばれている。
理性の哲学的冒険の背後に、熱烈な実存的探求が隠されており、その探求の叡智的次元こそが、その最も個人的且つ最も普遍的な到達点となることであろう(同書39頁)。