内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

冬の夕暮れの教会にて ― モーツァルト『アヴェ・ヴェルム・コルプス』

2013-11-16 03:01:00 | 私の好きな曲

 ストラスブールに住み始めて2年経ち、大学で教えるようになった1998年に、中古だが車を購入した。生まれて初めてのマイ・カーである。三年落ちのゴルフⅢ。よく走ってくれた。手放すまでの七年間余り、走行距離12万キロ以上。週末は必ずと言っていいほどドライブに出た。ストラスブールにいる間は、ドイツ側を走らせることが多かった。フライブルクまで小一時間、バーデン・バーデン(日本の温泉が恋しくなるとよく行ったものだ)まで40分、シュトットガルトまで1時間半、ハイデルベルクまでも同じくらい。アウトバーンはよく整備され、4車線区間は速度無制限。ゴルフの限界はどの辺りかと、アクセルを底まで踏み込みっぱなしにしてみたが、190キロが限界だった。その脇をBMW、メルセデス・ベンツ、アウディ、ポルシェが風のように追い越していく。
 ある冬の日曜日、前日まで降り続いていた雪が止んで、気持ちのよい青空が広がった。昼過ぎからふとドライブに出ることにした。そのころ、日帰りドライブといえば、あらかじめ行く先を決めないで、まずハンドルを握り、少し車を走らせているうちに、浮かんでくる地名や風景で行く先を決める。家族の意見も聞くには聞くが、だいたい私が決める。その時は、車を止めて地図を見るとチュービンゲンはストラスブールから東に直線距離で100キロほどだとわかり、行く先決定。アウトバーンを使うと一旦北上してから東に折れ、更に南下することになり、走行距離としては180キロくらい、2時間弱かかる。行きは、ドイツの田舎の風景が見たくて、一般道を使って最短距離で行ってみることにした。一面雪景色。陽光が煌めくように反射して眩しい。道路はすっかり除雪してあり快適。2時間ほどで到着。ヘーゲル、シェリング、ヘルダーリンなどが神学校生として青春期を過ごした街。それぞれ哲学者の名が冠された建物が並ぶチュービンゲン大学のキャッパスを足早に見学し、晩年精神に異常をきたしたヘルダーリンが幽閉されたかのように過ごした塔(現在は「ヘルダーリン塔」として知られている)を見た後、中心街を少しぶらついていると、近くの教会から合唱曲が聞こえてきた。引き寄せられるように中に入ると、おそらくクリスマスのミサの準備であろう、合唱隊の練習中だった。その時聴いた曲がモーツァルトの『アヴェ・ヴェルム・コルプス』だったわけではない。だが、今、その時の情景を思い出し、そこに音楽を流すとすれば、それはどうしてもこの曲でなくてはならないような気がするのである。
 この記事を書きながら聴いているのは、ミッシェル・コルボ指揮、ローザンヌ声楽・器楽アンサンブルの演奏。