机に向かって仕事をしているとき(あるいはそのふりをしているとき)、ストリーミングでクラッシク音楽を流しっぱなしするという「悪しき」習慣は数年来のことだが、アップルミュージックでテーマ別に編集されたセレクションや私の過去の聴取歴から私が気に入りそうな曲ばかりをAIが選んでまとめたラジオ・ステーションを聞くことが多い。こうした聞き方だと、こちらの好みに合わない曲はあらかじめ排除されているから、大体において気持ちよく聞いていられる(すっかり、AIに支配されてしまっているとも言えるけど)。
それに、新しい曲、新しい演奏家にも出会うことができる。昨日も出会ってしまった。作曲家としてのクララ・シューマン(1819-1896)とイギリス人ピアニスト、イサタ・カネー=メイソン(1997-)である。
クララについては、ロベール・シューマンの奥さんで当代一流のピアニスト、ブラームスが全幅の信頼を置いていた(密かな恋心を抱いてもいた)女性というくらいの知識しかなく、作曲者としてのクララについては何も知らず、おそらく一曲も聴いたことがなかった。少なくとも、彼女の作曲した曲と知りつつ聴いたことはなかった。
イサタ・カネー=メイソンについては何も知らなかった(彼女についてはこちらのサイトを参照されたし)。弟のシェクはチェリストとして世界的に有名だ。実によく歌うチェロだ。姉弟のデュオの演奏も聴いてみた。こちらも素晴らしい。
しっとりと光るように美しく、少しだけメランコリックなピアノの音にはたと仕事の手が止まった。クララ・シューマンの『三つのロマンス』作品11だった。クララのピアノ作品を集めたその名も『ロマンス』というアルバムからの選曲だった(クララが夫ロベルトの歌曲からピアノ曲に編曲した「献呈」(歌曲集『ミルテの花』Op.25より)と「月夜」(歌曲集『リーダークライス』Op.39より)、も収録されている)。イサタはクララ・シューマンに限りない敬愛の念を抱いているという。
早速アルバムの全曲を聴いてみた。どれもとても良い演奏だ。作品11も良かったけれど、それ以上に気に入ったのが、同じく『三つのロマンス』と題されたピアノとヴァイオリンのための三つのロマンス。ヴァイオリンとピアノの相互に信頼し合った掛け合いがなんとも心地よく、聴くものを幸福な気分にしてくれる。
かくしてまた一つ「私の好きな曲」が増えた。