今は未だ来てはおらぬが、都会の陋屋に独居する身寄りのない瘋癲老人に近い将来こんなことが起こるそうだ。
国のすべての住人の生きる時間を管理している日本時間銀行からある日老人のところに一通の封書が届く。
その封書には、「近々65歳で定年を迎えられるあなたに今後の人生35年間を無利子でご融資しいたします。」という書き出しではじまるチラシが入っていた。同封の説明書には以下の様なことが書かれている。
手続きは一切不要、弊銀行が契約に必要な書類はすべてご準備いたします。契約はあなたの65歳の誕生日に発効し、以後35年間、毎年一月一日に自動的にあなたの時間口座に一年振り込まれます。
ただし、この契約はあなたの側から解除することはできません。つまり、あなたは百歳までは生きなくてはならないのです。その後は、どうされようとあなたの自由です。
支給年金額が必要最低限の生活費を下回る場合、すべて自己責任でお願いたします。つまり、ご自分でなんとかしてください、ということです。
この契約を拒否される場合、65歳の誕生日から、あなたの命の保証はありません。
契約が成立してから十年ほど後にはこんなことになるという。
老人が独居する築五十年のぼろアパートの扉をガンガン叩く音がする。
「〇〇さーん、居ることはわかってんのや。今日の生活費、払ってもらいましょうか。光熱水費・食費・その他各種公共料金・医療費、全部コミコミで一万円ポッキリや。安いもんやろう。」
日本時間銀行と裏で繋がっている闇時間金融組織が雇っている反社会的勢力の構成員たちが生活費の取り立てに来たのだ。彼らは執拗に毎日取り立てに来る。
しかし、老人の年金ではどうにも払えない。働こうにも働き口がない。金を借りるあてもない。
これが百歳まで続くのかと思うと、老人は生きた心地がしない。病気がちで、体を自由に動かすこともできない。これじゃあ死んだほうがましだと老人は涙を流す。しかし、死ねない。
これを「生き地獄」と呼ばずしてなんと呼ぼうか。
こんな話が語り伝えられるようになる日も遠くはないらしい。