プログレッシブ・ロックの金字塔としてよく挙げられるのがキング・クリムゾンの『クリムゾン・キングの宮殿』だ。曲を聞く前からジャケットのイラストだけで強烈な印象を受ける。この印象はやっぱりLPサイズでないと受けにくいのではないだろうか。アルバムの最初に収められた「二十一世紀の精神異常者」(これが日本版発売当時の曲名だったが、後日、差別的表現を避けるという理由で「二十一世紀のスキッツォイド・マン」に変更されたというが、まったく文脈を無視して、言葉だけ入れ替えても差別がなくなったわけではないのだから、こういう変更はほぼ無意味だと思うし、曲名のインパクトもかくして失われてしまったと思う)は、好きな曲というよりも最初に聴いたときの衝撃を忘れられない曲と言ったほうがよい。今あらためて聴くと、今日の世界(とくにどこかの国の大統領のこと)を予言しているようで、このアルバムが1969年にリリースされたということに驚嘆せざるを得ない。二曲目の「風に語りて」は打って変わって静かで美しいメロディーの曲で、「二十一世紀の精神異常者」とのコントラストが鮮やかだ。A面の三曲目が「エピタフ」(原詩と歌詞はこちらを御覧ください)。高校生のころは、この曲を浸しているペシミズムに痺れていただけだが、今聴くと、現在の世界の弔鐘のように聞こえる。B面の二曲「ムーン・チャイルド」「クリムゾン・キングの宮殿」もそれぞれに素晴らしいのだが、このアルバムに収められた五曲のなかで歌詞とメロディーが一番心に染みるという点で「エピタフ」は私にとって格別な一曲である。