湿度では東京の夏と勝負になりませんが、気温ではストラスブールもここのところ30度を超える日が続いています。今日は34度まで上がりました。湿度はなんと28%。
こんな日が一ヶ月も続いたら、それこそ水不足で大変なことになりますが、無責任にも私はこのよう乾いた暑さが偏愛的に好き、なのです(妄言を許されるならば、「好き」はつねに偏愛です)。汗をあまりかかないし、かいてもすぐに乾きます。ものみな萎えるこういうカラカラの夏、逆説的なのですが、「ああ、今、生きている」って、ひしひしと感じるのです(私って、ヘンタイ?)。
四半世紀前、アルル近くの小村で二週間ほどヴァカンスを過ごしたとき、日中の気温が40度近くまで上昇したことがありました。ゆるやかな起伏の石灰質の白い地面にオリーブの木が点在するだけの広大な風景のなかに人影はなく、まるで時間が止まってしまったかのような感覚が不意に訪れ、衝撃を受けました。それは私にとってまさに「永遠の正午」経験でした。
そんなちょっとニーチェ的な経験をたっぷりセンチメンタルに回想しつつ過ごした今日の夕暮れ時、キンキンに冷えたラングドック産のお気に入りのロゼでほろ酔い気分に浸りながら、さて何を聴こうかなとCDの並んだ棚を眺めていると、シベリウスとかグリーグとか、まず北欧系に食指が動くのですが、「いや、今日の気分はちょっと違うな」と躊躇していると、「こういうときは、なんてたってヘンデルでしょ」という託宣が天上から聞こえてきました(って、ただの幻聴でしょ)。
ヴィヴァルディでもなく、スカルラッティでもなく、バッハでもなく、モーツアルトでもなく、ましてやベートーヴェンではなく、ブラームス? アリエナイ(秋まで待ってよ)、あっ、でも、ハイドンとかメンデルスゾーンも悪くないかも、と、ちょっとはヒヨリながらも、「やっぱ、夏はヘンデルでしょ」という、独善的・短絡的かつ無根拠な結論へと至るのでありました。
というわけで、さっきから、ヘンデル全集を片っ端から聴いています。とはいえ、『水上の音楽』とか『王宮の花火の音楽』とかが特に夏向きだと思っているわけではないのです。オペラ好きではないのですが、ヘンデルのオペラは別格です。アリアは言うまでもなく。器楽曲はみんな好き、といってもいいくらい。
かくして、ヘンデルで涼む真夏の日暮れ時、でありました。