内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

私撰涼文集(四)「それは奇跡のような素晴らしい夜だった」― ドストエフスキー『白夜』より

2023-07-28 00:43:09 | 読游摘録

 堀田善衛の『ミッシェル 城館の人』(上中下三巻、集英社文庫、2004年。初版、集英社、1994年)をこの五月に開催された「マイ・モンテーニュ月間」中に読んでいたら、他の堀田作品も読みたくなり、遠い若き日に読んだ『若き日の詩人たちの肖像』(上下二巻、集英社文庫、1977年。初版、1968年、新潮社)を読み直そうと上巻を開いた。すると、エピグラフとしてドストエフスキーの『白夜』の冒頭が掲げられていた。上巻の本文にも、ドストエフスキー二十七歳のときの作品からとして同一箇所が引用されている。最初に読んだときには特に印象に残らなかったようで、すっかり忘れていた。ところが、今回読み直して、ひどく心に染みた。堀田が引用しているのとは別の、同作品の最新訳で同箇所を掲げる。

 それは奇跡のような素晴らしい夜だった。親愛なる読者よ、僕たちが若いときにのみあり得るような、そんな夜だった。満天の星で、あまりにも明るいので、見上げていると、こんな空の下に、怒りっぽい人間だの、気まぐれな人間だの、そうした雑多な人間が本当に存在し得るだろうかと、どうしても自分に問いかけずにはいられない。これもまた、若者らしい質問だが、どうか神様があなたの心にもなるべく頻繁に、こういう質問を送ってくださいますように!
                     『白夜/おかしな人間の夢』(安岡治子訳、光文社古典新訳文庫、2015年)