kotoba日記                     小久保圭介

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石を運ぶ娘

2022年01月17日 | 生活詩
  




君の友達は
カウンターで待っていた
君の友達は
赤い花を
バッグにつけて
カウンターに顔を伏せ
眠っていた
君が仕事を終えるまで

君はカイロとチョコを欲しがった
君は手を怪我して
その傷をわたしに見せた
コロナ渦だったから
持っていた消毒液で傷口に噴射してやると
濡れた手で君は北へ向かった
小さく冷たい手だった


友達と連れだって
南へ向かう
冬の夕

君の手には卍とたくさんの
小さな入れ墨が入っていた
友達はみんな体を売っていた
君は石を運んで金を得ていた
だがたいした金にはならず
しかも君もまた知恵がなかったので
すぐに仕事を忘れた
石屋の爺さんは言った
「すぐに忘れちまうんだ」

けれど君はきれいに笑った
金がなく昼飯は食わなかったけど
煙草は吸った
太陽は君を見ていた

君の母は刑務所に入っていた
君の父は石屋の爺さんに言った
「娘を頼む。金はいらない」
施設育ちの君は
常に居場所を監視されていて
きつい石屋を休んで家にいたら
すぐに電話が鳴って
怒鳴られた
「どうして働かない?」
街をうろつかないように
施設の連中は見張っていた

君は思った
うるせえうざい
君は石屋で重い石を運んだ
腰が痛くなっても
痛いと言わなかった
きれいに笑った

友達は?
と聞くと
連絡をとっていない
と言った
それから
チョコをやると
笑った

この道
君の道の上で
常に太陽が光るように
君の道の上で
大木が道をふさいでいないように
君の手を取って
いざなう天使が
言う
「その石を置きなさい」


君の母は君の稼いだ金をふんだくった
でも君はそのままにしていた
父は頼りにならず
父もまた放浪していた
君の母は君が小さな時から
君を殴った
君は泣いたが
泣いても無駄だと判ると
殴られても泣かなくなった
母を睨むとさらに殴られた
顔にできたあざを自分で見ることができず
唇が切れて痛くても
その血を見ることはなかった
自分の血だから自分で舐めた

石屋の爺さんが冗談で
君の頭を叩こうとすると
「痛い痛い」
と叩かれる前に叫んで
君は頭を押さえた
二度と誰も君を叩く仕草をしなくなり
君は石を運んだ


それでも
君はきれいに笑うことができた
「寒い寒い」
といつも言った
その声を宇宙が聞いていることに
気づかぬまま
「寒い寒い」
と言って
きれいに笑った


太陽が常に
君の上にありますように
進む道が
輝くことはないが
煙草程度のささやかな幸せが
毎日
君に訪れ
いつか
目覚める時まで
君は石を運ぶ

天が
君の目覚めを待っている
天の強い思いを知らぬまま
君は今日も石を運ぶ
冬なのに
腕をまくって