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取材先から帰社すると真っ先にシャチョーに呼ばれた。
「おい、ちょっと行こうか」
まだ15時半である。
「ちょっと行こうか」というシャチョーの言葉は「居酒屋で話しをしようぜ」という意味だ。
やや日が傾きかけたとはいえ、まだまだ残暑厳しい真夏日の東京。冷たく冷えたビールが飲める、といっても、ここ最近のシャチョーとの居酒屋ミーティングは気が重い。
3年前、「一緒にやらないか」と誘われ入社した現在の会社だが、この間目立った成果も上げず、シャチョーのプレッシャーは日に日に強くなっていく一方だからだ。
そうこうするうちにたどり着いたお店は神田駅ガード下の「升亀」。当ブログ「居酒屋放浪記NO.0016」で掲載した居酒屋「大越」と隣接する庶民的居酒屋である。
100席以上はあろうか、という広い店内の一区画に陣取り、シャチョーは瓶ビールを2本頼んだ。飲みに行くとシャチョーは必ず、瓶ビールしか注文しない。グラスに注がれたり、注ぎあったりするのが好きなようだ。或いは、その注ぎあいっこによって会社への忠誠心を試しているようにもみえる。
わたしはそんなことが嫌いだ。そして断固反対だ。好きなときに好きな量だけ注げばいい。
そもそも、グラスに入っている途中で継ぎ足されるとビールがまずくなっていけない。
「親方日の丸」、「護送船団方式」、「終身雇用制度」が崩壊しつつある現在、んなこたぁ止めたほうがいい、と思う今日この頃である。
「つまみ頼めよ」と言うシャチョーに「待ってました」と言わんばかり、開口一番、「鰯の天ぷら」を注文した。お店のおばちゃんが「今日は鰯のいいのが入っているよ」と教えてくれたからだ。
さて、瓶ビールが運ばれてきた。心の中で叫んでいた威勢のいい主張は何処へ?わたしはすぐさまシャチョーのグラスにキリンラガーを注ぐ。要するに小心者なのだ。
店内は比較的がらんとしていた。
まだ、お昼の定食を食べるものさえいた。
後ろの席には定年間近と思しき背広組が早々と騒いでおり、その喚声だけが店に響き渡っていた。
シャチョーは小さなコップを幾度となく口に運んでは「稼ごうな」と何度も何度も言った。
「はい」と返すしかなかった。
やがて、おいしそうに湯気をたてた鰯天が運ばれてきた。7尾の鰯におびただしい量の葱が盛られている。これで僅か380円だ。「今日のお奨め」という黒板にそう書いてある。
たまらなく、いいかおりを発する鰯天に耐え切れず、1尾を箸で取り、早速かぶりついた。天ぷらの歯ごたえが軽快にした。そして、ジワ~っと天つゆのうまみが口に広がっていく。やっぱり、天ぷらは熱いうちに食べないといけない。
その間、シャチョーの話は続く。
「経費節減うんたらかんたら」
「減収増益うんたらかんたら」
「新商品の開発うんたらかんたら」
シャチョーの言葉はもはや途切れ途切れだ。
このさっぱりとした鰯天の前に人は無力である。
ほろ苦いシャチョーの説教とは裏腹に鰯天はさっぱりした味わいだ。大量に添えられた青葱と共に口に運ぶとたまらなく爽やか。
鰯天とキリンラガーがもやもやを吹き飛ばしてくれるようだ。
ウチでは今日はサンマの塩焼きでした。
また、残っているビールに継ぎ足しは、おいしく飲みたい教ビール飲みとして、かなりの反則技だろうね、やはり。
しかし、今回の文章に俺は声を出して笑ってしまった。
>わたしはそんなことが嫌いだ。そして断固反対だ。
>好きなときに好きな量だけ注げばいい。
>そもそも、グラスに入っている途中で継ぎ足されると
ビールがまずくなっていけない。
何故だかこの部分を、俺はヒロシ風に読んでしまったのだよ師よ。そうするとネタ的にも、文章的にも凄くはまってしまった故、笑ってしまったんだ。
それにしても、鰯天を食べながら恍惚に我を忘れ、目の焦点を失う師の姿が浮かんで来るようだよ。サラリーマンとしてくれぐれも、真剣に聞いているような相槌のアクション(笑)だけは忘れてはいけないぞ師よ。
師よ。バリ情報を近々送るよ。お奨めはウブドの高級ホテルだな。安宿生活が長いと、高級ホテルが斬新だよ。
さて、一応、サラリーマンとしての相槌アクションはかなり得意な方だよ。時々友人に対しても使っているときがあって、しらふでも目が虚ろかも。バリに行くまでに東京には来ないのか?
私も、相槌と笑いとビックリアクションはよくやります。
ウチのシャチョーは飲めないんですが
親父からは「さしつさされつ」は最初の一杯まで、
と教わりました。
会社ってめんどくさいですね。
さて、師がミスター相槌だった旨、安心したよ。俺も昔、営業マンだった頃は水飲み鳥人形のようにお辞儀&うなづきで得意先間を渡ってきたなあ。
今は手酌オンリーの自分勝手酒飲みだけどね。しかし、日本もヨーロッパみたいにみんなが好き勝手に勝手に飲む国になればいいのになあ。あ、けどあいつらも注いで来るときあるぞ!でも、やっぱりアジアほどじゃないなあ。
なんでなんだろ。
「さしつ、さされつ」は最初の一杯で充分!!お父さんが正しッ。
さて、師よ。タイミングが合えば合いたいナ。師のコメントでにわかに当ブログが活気づいているよ。サンクス、師よ。しかし、水飲み鳥人形とはいい表現だナ。あんたはお辞儀とうなずき、しっぱなしじゃないか。
バリのビンタンビールはうまいぞぉ。手酌か?それとも注ぎ注ぎ攻撃か?