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喫茶さすらい 034 - 音のない雨の詩 - 「Coffe shop 杉」(荒川区東日暮里)

2016-01-13 17:59:57 | 喫茶さすらい

信号待ちで、ボクはフロントガラスを上下するクルマのワイパーを見つめていた。信号が変わるとクルマは小さなしぶきをあげて走り去っていった。

音もなく降りそぼる雨に、肩をすぼめてボクは歩いた。

歩道の白い線を踏みながら歩き、ボクは激しく何かにぶつかった。体制を立てなおして振り返ると、赤いランプが点滅するパーキングメーターだった。

止められたクルマのサイドガラスに顔を映してみた。雨のしずくがガラスをつたい、やがてボクの涙になった。

これは一体誰のことなのか。

透過率の低いスモークガラスに映る奇妙な男が喘ぐような口でそうつぶやく。

 

古い公営住宅の壁にはりついたシミに降り注ぐ小糠雨。

ボクは雨に濡れながら、それに見入った。

 

ひと気のない公園の前で立ち止まってみた。
錆びた遊具が風に揺れていた。

冷えきった躰を押して歩くと、喫茶店があらわれた。
「コーヒーショップ 杉」。
雨で濡れたコートを脱いで、ボクは店に入った。

 

軽快な音楽が流れてきた。

その瞬間から、ボクの耳に音が復活した。

「いらっしゃい」。

お店のおばさんの声で、言葉を取り戻した。

「ホットコーヒーとミックスサンド」。

 

温かなコーヒーで、ボクは温もりを取り戻した。

きれいに揃えられたミックスサンドを見て、ボクの色彩は鮮やかに動きだした。

 

モノトーンの静寂に、冷えきった躰を温めてくれたのは、一軒の喫茶店だった。

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