雨が降っているからだろう。
いつもは満員のこの店にすんなりと入れたのは。
7月の雨に足下を濡らし、トリコローレの扉の前に立ってみると、いつもは鈴なりに立っている女の子の姿が少ない。
この日は難なく店に入ることができた。
立ちイタリアンの店である。
本格イタリアンがどういうものか知らない。
だって、イタリアに行ったことがないのだから。
でも、これだけはいえる。イタリアンとお酒は絶妙の相性である。
チーズが出てきた。アミューズであろう。
黄色がかったそのチーズは食感がドライでやや歯ごたえがある。
なんという名前のチーズか分からないが、とにかくおいしい。
白ワインはパッシオーネビアンコ(500円)。
辛口のワイン。
梅雨のうっとうしさを遣り過ごすには、パンチのあるワインがいい。
「俺のイタリアン」の俺とは誰のことだろう。
女性ファンが圧倒的に多い店だから、客観的所有格としての「俺」ではないだろう。ということは、主観的、つまり店側から見た「俺」ということになる。一見「俺のイタリアンだぜ。どうよ!」という感じの店名に聞こえるが、この気取っていない雰囲気から察すれば、「この価格でも最高においしいものを出すよ」という自負なのかもしれない。
パリパリと野菜の歯ごたえがいい「イタリア野菜のマリネ」(380円)。赤と黄色のパプリカが梅雨空ばかりみていた今日のボクの目に眩しく映る。
ワインがおいしい。
目の前の厨房で繰り広げられている小気味いいシェフの動きに見とれてしまう、そのリズム感ある動きを見ていると豊かな気持ちにすらなっていく。
何を食べようかなとついメニュー表に目を移してしまう。全てが魔法のように料理が作られていく。それらの匂いが鼻孔をくすぐると「あぁ、これも食べてみたい」と思うのだ。
映画「グラン・ブルー」でジャン・レノ演じるエンツォが家に帰り、豪勢な食事をとるシーンがある。イタリアの食事のボリュームにも驚いたが、それよりもゆっくりと時間をかけ、おしゃべりをしながら食事を愉しむというイタリア人の食時観に衝撃を覚えた。食事とはこうありたいと思ったものである。
「俺のイタリアン」もひとりでワイングラスを片手に過ごす店ではない。気が付けば周囲の女性たちはおしゃべりと食事を愉しんでいる。
最近の立ち飲み屋には必ずといっていいほど、テレビが置いてあるけれど、やっぱりおしゃべりがお酒や料理をおいしくするのだろう。
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