
専門学校を卒業して入社した音楽事務所の年俸は120万円。
月給にして10万円である。
就職に合わせて浦安市で一人暮らしを始めた。家賃5万1,000円。共益費1,000円。ボクの月給の半分以上は家賃で消えていった。
光熱費と社会保障費を支払うと、生活はとてつもなく苦しく、ボクは数か月で仕事を辞めた。
しばらくプラプラしていた。当然収入はゼロ。
辛く苦しい20歳だった。
1週間に1回だけ贅沢しようと思った。
土曜日、スーパーで酒を買う。ワンカップ1本と100円の柿の種。ボクの精一杯の贅沢だった。
はじめは「OZEKI」のワンカップを買っていたが、ある日「ふなぐち菊水」のワンカップを手にしてみた。
内容量が断然少ない。「OZEKI」は2合近く入っているが、「ふなぐち菊水」は1合ちょっとの200ml。しかも値段も高い。
けれど、ボクはそのとき「菊水」を思いきって買ってみることにした。
家に帰って飲んでみると、トロトロの飲み口。断然うまい。
世の中にこんなうまい酒があるのかと思った。
それからというもの、毎週土曜日になると、ボクは豪遊した。「ふなぐち菊水」と「柿の種」。
20代の前半まで続いた苦しい生活を支えてくれたのは、週に1回の「ふなぐち菊水」だった。
数年前に秋葉原のやっちゃば跡に「CHABARA」という各地のうまいものを集めた店が出来た。
ボクはよくそこに味噌や缶詰などを買いに行っていたのだが、その一角にカウンターだけの酒場があることに気が付いた。
「KURAMOTO STAND」。
「STAND」と書いてあるものの、椅子があって立ち飲みではなかった。ボクは何度か通り過ぎるだけだったが、ある日「ふなぐち菊水」という文字が目に飛び込んできた。どうやら、「菊水」が飲めるらしい。
ボクが立ち止ってみていることに気が付いたお店の人がわざわざ出てきてくれて、「どうぞ」と勧めてくれた。
「菊水が飲めるんですね」。
ボクがそういうと、きれいな女性は笑顔で、「ここは菊水酒造の店なんですよ」と言う。
若かりし頃、大変世話になった「菊水」に背を向けることはできない。ボクはそう思って、その日の夜、店に行くことにした。
バーのような雰囲気の小さなお店。いや、お店というより「CHABARA」の中の小さな一角と言った方がいい。
早速お酒をいただこうとすると、どうやらクラフトビールも用意されているという。
「スワンレイクビール」(700円)。
若干濁ったビールは恐らく酵母だろう。実にうまい。
一気に飲み干し、「菊水」をいただくことに。
「薫香ふなぐち菊水」。
ボクがよく飲んだ黄色の「ふなぐち菊水一番しぼり」ではないが、それをいただくことにした。
600円。
あのころ、600円の飲み物など買える余裕すらなかった。
猪口を傾け、くいっといってみる。
昔飲んだゼリーのような濃厚なトロトロ感が舌を滑って、喉を潜り抜けていく。
うまい。断然にうまい。
つまみは「オリーブの塩麹マリネ」(300円)。
オリーブが濃厚な酒と一体となって、脳の味覚を刺激する。
高校の頃、担任のY田先生に「俺、ギリギリの暮らしに憧れているんですよ」などと豪語し、ボクはそれを望んで入った音楽の世界だったが、我慢に耐えることもなく仕事を辞めたのは、単なる甘ちゃんの何者でもないように、今は思う。
金なんかより、愛や自由こそ大切などと分かった風に言いながら、世間知らずの甘ちゃんは、長く付き合った彼女に愛想を尽かされ、また仕事を辞め、アジアに向かった。
それでも、少なくともボクはあのころ、当時の身丈で、せいいっぱいだった。
若かったなと思う。
愛や自由が何たるかは今も分からないし、むしろ今の方が分からなくなっているかもしれない。
苦しい20代だったけれど、それでよかったのだと思う。
今こうして、うまい酒が飲めるのだから。
秋葉原には毎週の様に行ってるんですけどね。
「CHABARA」の中で飲めるんですよ。
しかも、クラフトビールも。
肴もしっかりしてますよ。
B1グランプリで食べるより、断然いいです。
そもそもが取って付けたやつが多いのに、更にそれの簡易版がお高いとかw
何回か食べて見ましたが、おいしくないし、高いですね。
「あか、こんなものか」と思う人もいるのではないでしょうか。かえって、悪い評判になるような気がしています。