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BASEBALL馬鹿 BLOG

オレたちの「深夜特急」~ヴェトナム編 サパ②~

2007-03-09 12:55:27 | オレたちの「深夜特急」
わたしを乗せてきたバスが砂煙と共に山間の向こうに消えていくと、わたしは宿を探すために歩き始めることにした。
 なにしろ、道は一本。青い空に道は続いているようにも見える。建物はポツリポツリとあるにはあるが、人一人影すら見えない。
 10分歩いても集落らしいところに辿り着かず、まさか何にもないところに来てしまったか、と歩きながら不安になってきたところで、一本道の向こうから、誰かが歩いてくるのが見えた。小さな人影が少しずつ形になってくると、それがやや痩せた婦人であることが分かった。
 日傘と白いブラウスが陽光に反射して目に眩しい。
 ニコニコして笑顔ですれ違うか、と構えていたところ、婦人もわたしの顔を覗きこんでいる。
 すれ違う瞬間、婦人はわたしに声をかけてきた。たどたどしい英語だった。
「泊まる所、決まっているか?」
 思いも寄らぬ言葉だった。
 「いいえ」。とわたしが答えると、婦人はやや思いつめたような顔つきで「ウチ、ゲストハウス、泊まらないか」と提案してきた。
 嘘をついているようには見えないし、人を騙そうという風でもない。
 「一泊いくらですか?」
とわたしが尋ねると、婦人は「シングル、3ドル」と返ってきた。
 決して安くはない。そこで、わたしは「1ドルって1万ドン?」とカマをかけて尋ねると婦人は「Yes」と答える。
 そこで、わたしは「とりあえず、部屋を見せてほしい」とお願いした。

 1ドルはヴェトナムのドンに換算すると約1万1,000ドンである。だが、ヴェトナムの田舎に行くと、1ドル=1万ドンのレートで通るところがあると、バックパッカー仲間から聞いていた。
 ラオカイで10ドル=11万ドンで換えたから、少なくとも宿泊代は1,000ドンほど得する計算ではある。
 婦人は「OK」と言って、元来た道をわたしと一緒に引き返したのだった。

しばらく、歩くと少しずつ賑やかになってきた。どうやら、そこは市場のようだった。
 見慣れぬ派手な刺繍を施した民族衣装に身をまとった人たちが大勢歩いている。やはり、ここはガイドブックにあるように山岳少数民族が集まる村だったのだ。

 市場を横切って、階段を下りると今度はちょっとした集落に出た。そこから4軒目か5軒目の並びにその婦人のゲストハウス「Chrysopogon Hotel」があった。
 石作りの立派な建物。中に通されて、階段を上がると、広くて小奇麗な部屋に行き着いた。
 どうやら、この部屋が1泊3万ドンらしい。ベッドはダブル。シャワールームは清潔だし、トイレは洋式の水洗だ。中国では考えられない豪華さ。ここに泊まるのは、もったいないような気がした。

 「他の宿も見てから」と婦人に言って外に出ようとすると、婦人は「泊まって」と懇願するような顔つきでわたしを引き止める。その必死な顔つきの婦人を振り払うのも忍びない。
 「さて、困った」。しかし、よく考えてみると、一本道で出会ったのもきっと何かの縁だろう。他所のゲストハウスはもっと宿泊費が安いかも知れないけれど、ここに泊まることにしよう。

 宿には、婦人の他に息子さんがいた。ヒエップという13歳の少年だった。だが、小柄で痩身の少年は見た目よりも更に幼く見えた。「シンチャオ!」、わたしが挨拶をすると、ヒエップは人見知りの性質なのか、やや会釈してそそくさと裏の母屋に戻っていった。

 翌日から、わたしはサパの村々を探索した。探索といっても30分もあれば、見て回ることができる本当に小さな村落だった。
 村の中心は市場だった。朝も早いうちから開かれる市場は山岳少数民族でごった返す。主にモン族とザオ族が集まってくる様子だった。

 モン族は紺に染めた民族衣装を身に纏い、女性は背中に竹で編んだ籠を背負っていた。彼女らは足袋のようなものを履いており、ふくらはぎに2本の紐を襷がけして縛っていた。  
 また、その手には必ずサトウキビの茎が握られ、彼女らは喰いちぎりながら、甘い蜜を口にしていた。その姿がとても愛くるしく、その服装から密かにわたしは彼女らを「猿飛佐助」と呼んでいた。

 一方のザオ族は、赤い頭巾のようなものを被っており、きれいな刺繍を施した立派な衣装を身に纏っていた。モン族は男女共々よく見かけたが、ザオ族は女性しか村に訪ねてこなかったようだ。

 山奥ということもあって、気候は涼しかった。また、天候もころころと猫の目のように変わった。朝方、晴れ間が覗いていたと思ったら、午後は深い霧に包まれるといった具合。このため、わたしは大抵朝方に村を散歩することを日課にした。

 食事は近所の食堂で済ませた。本当はヴェトナム人が普通に食べる食事を摂りたかったが、その食堂はわざわざ欧米人のバックパッカー向けに朝はトーストとハムエッグ。夜はフライドライスのようなものしか食べさせてくれなかった。
 サパに着いて3日目くらいにニュージーランド人のカップルがやってきた。それまで、旅行者らしい旅行者はわたしくらいなものだったが、これで、少し賑やかになった。
 その翌日、わたしはそのニュージーランド人に誘われて、片道5kmの小トレッキングに出かけた。小一時間かけて辿り着いたカットカットの滝は晴天に恵まれ素晴らしい眺望だった。

 水清らかで、風は柔らかく、草木はそよぎ、日差しは暖かい。緑はまぶしく、時折モン族の女の子が大きな竹篭を担いで行き来をしている。
まさにゆっくりとした時間がそこには流れていた。

※当コーナーは、親愛なる友人、ふらいんぐふりーまん氏と同時進行形式で書き綴っています。並行して語られる物語として鬼飛(おにとび)ブログと合わせて読むと2度おいしいです。


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4 コメント

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いいとこそうだなあ (ふらいんぐふりーまん)
2007-03-09 20:44:03
サパ

特に広くもなく、何も見るものがないようなところなのに、何故か長逗留したくなるとこってあるよね。

サパはそんなところのような気がする。

そういうところって、特に交流がなくただブラブラしてるだけでも、大きな孤独感を感じることなく過ごせることが多いような気がするよ・・・。

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ここは (熊猫刑事)
2007-03-09 21:21:30
いいとこだったな。
時が許せば、ずっといつまでも滞在していたいとこだったよ。
だから、3回シリーズにして書いているわけなんだが。
なんせ、9日間も泊まってしまった。
ここは一生忘れられない土地だと思う。
師といたら、どれほど楽しかっただろう。
返信する
9日間は (ふらいんぐふりーまん)
2007-03-09 21:38:11
かなり気に入った時の滞在日数と見た。(笑)ほんといいところだったんだね。

じじいになったとき、二人で行ってみる?

返信する
本当は (熊猫刑事)
2007-03-10 08:34:10
心いくまで泊まっていたかったんだけれど、ヴィザの有効期限があるから最後の方はけっこう焦ってたような気がするよ。
ここはお奨めだなぁ。

数年前に「世界不思議発見」でサパが紹介されていたけれど、ほとんど変わってなかった。
ここは変わらないでほしいなぁ。いつか、行ってみようぜ、師よ。
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