とりあえず、池袋に行ってみようと思った。
嘘と孤独と、そして手ごたえのない、行くあてのない不確かな感触を抱えて。
埼京線に乗り込むと世界を行ったり来たりしていることが分かった。
ここではない、どこかへ。
そして、そのどこからかまたここへ。
池袋駅に滑り込む電車の車窓から「海峡TV」の電飾の文字を見ると、不夜城に戻ってきたのだなと感じる。LEDの青白い電飾と明朝体のそれが強烈に脳裏を揺さぶるのだ。
土曜日の池袋は真昼のように明るかったし、下品な人の流れは圧迫感すら感じさせ、吐き気をもようさせた。
時間を適当に潰さなければいけない。
ボクが足を向けたのは「HUB」。そこならば、ロンドンオリンピックの開会に先んじて開幕した女子サッカーの試合が見られると思ったからだ。
「HUB」の店内も人いきりだった。
汗とファンデーションのにおいがいりまじり、人の声が天井のファンを介して渦のように耳を突き抜ける。場末のクラブのようだった。
巨大な画面にはなでしこの深いブルーと、スウェーデンのイエローが跳躍している。ボクは酒をもらおうとカウンターの列に並ぼうとするが、人が多く、だれが列をなしているのか、サッカーを観戦しているのかが分からない。
ボクはうんざりした気持ちにすらなった。
「フォアローゼス」のロックをもらった。
サッカーはひどく退屈な試合だった。
だが、試合なんかボクにはどうでもいいことだった。
「フォアローゼス」を流し込むたび、ピロピリと舌は刺激され、手持無沙汰のボクは10分おきにケータイの画面をチェックした。
口に髭を蓄えているものの、まだ坊やの顔をした男が首に下げた金の太いアクセサリーをじゃらじゃらとさせながら、別の男と口論になった。そのうち、押し合いが始まり、ボクの肩にぶつかると、手にしていたボクの「フォアローゼス」が床にこぼれた。
ボクはまたうんざりとした気持ちになった。
寄りかかれる場所を探したが、そんなとところはどこにもなかった。
落ち着かないのは居場所がないからなのだろうか。
ここじゃない、どこかへ。
行ったり来たりしながら、気が付けば、いつもボクはどこかの世界で、立ち尽くしている。
でも、自分がどこにいるのかすら、もしかするとボクは自覚していないのかもしれない。ボクの名前も年齢も、ボクを証明するものなんて、すべてが記号。実体のあるものとして見える躰すら本当は何もないのかもしれない。
また、ケータイの目をやった。
焦りのような失望感。
ここじゃないのか。
2杯目の「フォアローゼス」を飲む前に、ボクは店を出た。
混沌のような、でも半ば気が触れているような池袋の人混みにのまれているほうがまだマシかなと思った。
※ 店の画像はHUBのHPより
嘘と孤独と、そして手ごたえのない、行くあてのない不確かな感触を抱えて。
埼京線に乗り込むと世界を行ったり来たりしていることが分かった。
ここではない、どこかへ。
そして、そのどこからかまたここへ。
池袋駅に滑り込む電車の車窓から「海峡TV」の電飾の文字を見ると、不夜城に戻ってきたのだなと感じる。LEDの青白い電飾と明朝体のそれが強烈に脳裏を揺さぶるのだ。
土曜日の池袋は真昼のように明るかったし、下品な人の流れは圧迫感すら感じさせ、吐き気をもようさせた。
時間を適当に潰さなければいけない。
ボクが足を向けたのは「HUB」。そこならば、ロンドンオリンピックの開会に先んじて開幕した女子サッカーの試合が見られると思ったからだ。
「HUB」の店内も人いきりだった。
汗とファンデーションのにおいがいりまじり、人の声が天井のファンを介して渦のように耳を突き抜ける。場末のクラブのようだった。
巨大な画面にはなでしこの深いブルーと、スウェーデンのイエローが跳躍している。ボクは酒をもらおうとカウンターの列に並ぼうとするが、人が多く、だれが列をなしているのか、サッカーを観戦しているのかが分からない。
ボクはうんざりした気持ちにすらなった。
「フォアローゼス」のロックをもらった。
サッカーはひどく退屈な試合だった。
だが、試合なんかボクにはどうでもいいことだった。
「フォアローゼス」を流し込むたび、ピロピリと舌は刺激され、手持無沙汰のボクは10分おきにケータイの画面をチェックした。
口に髭を蓄えているものの、まだ坊やの顔をした男が首に下げた金の太いアクセサリーをじゃらじゃらとさせながら、別の男と口論になった。そのうち、押し合いが始まり、ボクの肩にぶつかると、手にしていたボクの「フォアローゼス」が床にこぼれた。
ボクはまたうんざりとした気持ちになった。
寄りかかれる場所を探したが、そんなとところはどこにもなかった。
落ち着かないのは居場所がないからなのだろうか。
ここじゃない、どこかへ。
行ったり来たりしながら、気が付けば、いつもボクはどこかの世界で、立ち尽くしている。
でも、自分がどこにいるのかすら、もしかするとボクは自覚していないのかもしれない。ボクの名前も年齢も、ボクを証明するものなんて、すべてが記号。実体のあるものとして見える躰すら本当は何もないのかもしれない。
また、ケータイの目をやった。
焦りのような失望感。
ここじゃないのか。
2杯目の「フォアローゼス」を飲む前に、ボクは店を出た。
混沌のような、でも半ば気が触れているような池袋の人混みにのまれているほうがまだマシかなと思った。
※ 店の画像はHUBのHPより
切なく苦しい日々は、物語を紡ぐための糧なのか。出口の見えない重苦しい感情の起伏は、クリエイティブな世界ではプラスにさえ感じる。破壊と想像。なんて残酷なのだろう。
儚く美しい言葉のスコールが傷口に優しくしみる。
その洪水にボクはまだ溺れたままでいる。