栗野的視点(Kurino's viewpoint)

中小企業の活性化をテーマに講演・取材・執筆を続けている栗野 良の経営・流通・社会・ベンチャー評論。

防衛的出店で重荷を背負うことになる井筒屋

2007-12-25 18:20:52 | 視点
伊勢丹、小倉撤退へ 井筒屋 完全子会社化し入店(西日本新聞) - goo ニュース

 デパート戦争の煽りで井筒屋の将来が危惧されていたが、小倉駅前の伊勢丹(伊勢丹70%、井筒屋30%出資)から伊勢丹が資本を引き上げ、井筒屋が出資比率を100%にして同店を完全子会社にすることが決まった。

 この動きは一見、井筒屋の攻めの戦略のように見えるが、実情は逆で井筒屋はやむなく防衛的な攻めに出たわけだ。
 今月、リエゾン九州の例会で講演したときに小倉にデパート2つは成り立たず、いずれ井筒屋はどこかに吸収されるに違いないと述べたが、今回の動きは井筒屋にとっては苦渋の選択だったに違いにない。

 伊勢丹はそごう撤退の後に進出したのだが、そごう出店で井筒屋の売り上げは下降曲線に入り苦しい闘いを強いられていた。
それが再び上昇曲線になったのはそごう撤退という敵失のお陰だった。
ところがせっかくそごうが撤退し、競合相手がいなくなったと思ったら、それまで友好関係を築いていた(井筒屋は伊勢丹のシステムを導入するなど一部業務提携をしていた)伊勢丹が、地場財界の働きかけによるとはいえ、そごう跡に出店。
 井筒屋の出方が注目されたが30%出資するという形で伊勢丹と全面戦争になるのを避ける戦略に出た。
 しかし、伊勢丹の出店によって井筒屋本店の売り上げは再びそごう出店時と同じ状況に陥ったのである。

 今回の伊勢丹撤退で井筒屋に、そごう出店時の悪夢が再び甦ったのは間違いないだろう。
 井筒屋も30%の資本を引き上げれば、伊勢丹跡は間違いなく空きビルになる。
するとまた再び、小倉駅前の一等地を空きビルにするわけにはいかない、という議論が巻き起こり、高島屋か阪急かどこらに地場財界が出店依頼をするのは間違いない。
 かといって井筒屋も本店と程近い場所にもう一つのデパートを出店するのはメリットがない。

 ここまでは以前の繰り返しである。
まさに進むも地獄、退くも地獄である。
それでも今回は前回と異なり出店を決意したのは、ライバルの出店を防ぐ防衛上の戦略からだろう。
籠城戦ではなく、城から出て戦うことを選んだわけだ。
しかし、その戦略に勝ち目があるとは思えない。
いぜれどちらかの城を捨てなければならないだろう。
そこで残す城を駅前に決めたということだろう。

 では、現本店はどうするか。
いずれ事務所ビルか、ほかの物販ビル(全館物販とはいかないだろうが)に変更するに違いない。
でなければ井筒屋そのものの存続さえ危うくなるだろう。