「時間外労働に関する協定」(俗に「三六(サブロク)協定」とも呼ばれる)を初めとする各種の労使協定は、その事業場に労働者の過半数で組織する労働組合が無い場合には、労働者の過半数を代表するもの(以下、「労働者代表」と呼ぶ)と締結する。 また、就業規則を制定する際にも労働者代表の意見を聴かなければならない。
この労働者代表は、挙手や投票(「回覧方式での投票」や「社内ネットを用いた投票」でも差し支えない)等の民主的な方法によって選出されるべき(H11.1.29基発45号)なのだが、現実には、経営者が特定の者を指名したり、親睦会の代表が自動的に労働者代表になったりするケースも少なくない。
このような不適切な選出方法では適用される労使協定の有効性にすら疑問符が付いてしまうので、そのような取り扱いをしている会社はすぐに改めるべきだ。
ところで、今、厚生労働省に設けられた「労働基準関係法制研究会」では、この「労働者代表」を複数化・常設化しようとする議論が進んでいる。
そもそも、労使協定というのは、「労使が合意した事項については労働基準法等の規制を緩める(デロゲーション)」という位置づけがあるところ、それほどの重責を1人の労働者に担わせていることを当事者(労使とも)が理解していない現状があるので、それを改めようというものだ。
これに関し、日本経済団体連合会は「労使協創協議制」(選択制)を提案している。
これは、労働者の中から民主的な手続きにより複数人の代表を選出し、行政機関により認証を受けたうえで、会社との間で個々の労働者を規律する契約を締結する権限を付与するというものだ。
ただ、この提案で気を付けたいのが、過半数労働組合の無い会社が労使協創協議制を選択しなかった場合には労使協定が締結できない(労働基準法等の例外規定が適用されない)としていることだ。 この点、中小零細企業には受け容れがたいかも知れない。
一方、日本労働組合総連合会は「労働者代表法」の制定を要望している。
その案によれば、労働者を代表する複数の者から成る機関(労働者代表委員会)を設置し、その自主的・民主的な運営や使用者との対等性を確保する枠組みを法的に整備するとしている。
これまで連合は、労働組合でない「労働者代表」に対して否定的なスタンスであったが、少し軟化して、「労使コミュニケーションの中核的役割の担い手は労働組合であるべき」としつつも、「労働者代表の選出や運用について法で規制する」という現実的な歩み寄りを見せた印象だ。
具体的にどのように変わるかは今後の議論を待つことになるが、現状の労働者代表の在り方について労使とも問題意識を持っており、その解決のためには労働者代表の複数化・常設化が必要、という方向性は定まりつつあると言えよう。
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