今朝の起床時の気温は10度。
凍てついた? 昨日よりは
幾分、ましになりました。
如露の水も凍っていませんし、
久し振りに寒気の緩んだ朝。
その割に今日の太陽は、
日光を出し惜しみしていますので、
見るからに薄ら寒そうな
辺りの風景です。
空も久し振りに
すみれ色の空になりました。
さて、相変わらず
三浦綾子三昧の私の事、
『天北原野(上下)』 を
一気に読了。
『塩狩峠』 のように読んでいる
つもりで読んでいない本も
ありますし、こちらのように
読んだ事を忘れて2冊買う事も。
(他に 「続氷点」 も)
とは言え、
私がこの本を読むのは2度目です。
随分、以前の事ですので、前述のように、ほとんど忘れている始末。
それでも全く初めての本を手にした時とは違います。
何だか旧友・・いいえ、
幼友達にでも会った気分と言った方がいいかも知れません。
この小説の時代背景は、大正末期から昭和20年の終戦時まで。
タイトルの 『天北原野』 とは作中に次のように書かれています。
“宗谷支庁管内のこの 「猿払(さるふつ)原野」 は、
日本海側の 「サロベツ原野」 と共に 「天北原野」 と呼ばれている。
天塩の国と北見の国の1字ずつを取った呼称” としてあります。
この小説の舞台も、この地と大半が樺太です。
上の写真、文庫本の表紙そのままの世界が広がっているのでしょうね。
この表紙を今回のように、しみじみ眺めた事も、かつてありません。
樺太と言えば、去年の秋に映画 『氷雪の門』 を観たばかり。
その映像は、心に深く刻み込まれています。
折しも、つい最近、ロシアの大統領は日本固有の領土、北方4島を訪れましたし・・。
これらの事は前回読んだ時には、完全にスルーした部分。
尤も、この小説の醍醐味は、孝介と貴乃の哀しくも美しい壮大な恋愛ロマンでしょう。
ほとんど忘れていると言っても、さすがにこの部分は記憶にあります。
でも、それだけに前回は、ほとんど関心のなかった樺太の事や、
そこかしこに散りばめられている、北の植物の事に今日は敢えて触れたいと思うのです。
「蝦夷甘草(エゾカンゾウ)」 がとりわけ好きだった貴乃のためにも。
それにこの 「甘草」 は、アン でもお馴染みですから。
樺太も気候は厳しいけれど、その分、ダイナミックな自然の美しさ、
豊富な漁場や木材等など・・人々の生活は豊かだったようですね。
そうそう、下巻には戦争とソ連の侵攻があり、
映画通りの出来事の記述があった事も付け加えて置きます。
(略)・・・「なあ、お貴乃」 「なあに、お父っつぁん」 「おらあ、あのロスケタンポポだけはどうも 気に入らね。ありゃあのさばる草だもなあ」 「ほんとねぇ。私も嫌い。何だか毒々しくて。 やっぱり、タンポポは黄色のがいいわ」 樺太の春は、坂をのめくって転げ落ちる ようにやって来る。そしてせわしく花を咲かす。 雪が解けたかと思えば、もうその雪解け水を 吸ってタンポポが花を咲かす。 まるで地面に直に花を押し付けたように、 茎も伸びぬままに花が咲く。 その茎が伸びた頃は、もう初夏だ。 エゾツツジ、鈴蘭、カンゾウ などが一時に咲く。 そして、至る所に、血を吸ったような ロシヤタンポポ が朱くはびこる。 北海道にはないタンポポだ。 野に一面に咲くこのタンポポを見ていると、 貴乃も淋しい。 朱色がなぜ淋しいのか、貴乃は不思議だ。 三浦綾子作 「天北原野」 より |