朝食の支度にキッチンに降りていくと
洗面所からドライヤーの音が聞こえてきた。
( どう言おうかな…、もう知っているかな)
仏女優の訃報を
大ファンだった夫は、どう受け止めたのだろうか…。
コーヒーメーカーからコーヒーをマグカップに入れながら、
夫に
「ナタリー・ドロンが亡くなったね」
と話しかけると、
「うん、知ってるよ」
と、不機嫌そうに答えた。
(やはり、知っていたか)
もともと朝はひとりで静かに過ごしたいという気分屋だ、
これ以上、話しかけるのはマズい…
そう思って、夫の視界から外れることにした。
好きな映画俳優の話をするとき、
必ず出てくるのがナタリー・ドロンだった。
夫は中学生の頃、
自分は大人になったらナタリー・ドロンのような仏女優と結婚するのだと真剣に夢見ていた事があるらしい…
フランシス・レイを聴きながら、
酔っぱらうと饒舌になって、そんな話を何度も繰り返す夫に
私は毎回大笑いしながらも、
内心では、
(なんという身の程知らず!)
と、呆れたものだが、
思春期の少年が、ずっと年上の色っぽい美人女優に憧れる気持ちは理解できる。
そう言えば、
ナタリードロンの《個人教授》もそんなストーリーだった。
夫は、きっと
ルノー・ベルレーになりたかったのだ。
きっと今の夫のアタマの中は、
少年時代の想い出で、いっぱいだろう。
もう茶化すのは、やめよう…。
(ー ー;)