.......ストーリーテリングかおはなし会のグーグルアラート(気になるテーマのニュースや記事が送られてきます)あるいは検索で さすらいのアラスモン...のコンサートがあったことを知りました。語り手さんは旧知の方でしたが、さすらいのアラスモンというタイトルが気になって、アマゾンで手に入れようとしたら.....なんのことはない、昨年読んだ本でした。
ちくま文庫の”ビクトリア朝妖精物語”というアンソロジーのなかの一篇で、ケルト的な哀愁をおびたものがたりです。
.......アラスモンは竪琴をつまびき、妻のクライシーは歌をうたって諸国を遍歴しておりました。白と金の衣装に身をつつんだふたりは、若く美しく、見事な楽の手練れでありました。楽の音はひとびとの胸に響きひとびとは喝采し祝儀をはずみ....ふたりは自分たちのなりわいに喜びを持ち、幸福そのものでした.........あるとき、さびれた村に通りかかったふたりは その村に呪いがかけられていることを知ります。使い魔たちの呪歌を聴いたクライシーは寸分たがわずその歌を歌うことで、村にかけられた呪いを解いてしまいました。ところが、怒った使い魔たちに こんどは自分が黄金の竪琴に姿を変えられてしまったのです。
妻の姿を見失ったアラスモンは枝にかかっている輝くばかりの竪琴をみつけます。クライシーは愛するアラスモンに自分がここにいると叫ぶことも歌うこともできません。「わたしはここよ、ここにいるのよ」クライシーの心の叫びは狂おしい竪琴の響きとなるばかり.....アラスモンは妻とも知らず 見事な音色の竪琴を気に入り肩にしてクライシーを探す旅に出るのでした........
さすらいの果て、王都にたどりついたアラスモンはその琴の音で王を喜ばせ、居並ぶ楽士たちのだれひとりかなうものはありませんでした。しかし王の寵愛をねたんだ楽士たちが琴を盗む相談をしているのを偶然聞き、王宮を後にするのでした.....アラスモンが星〃の瞬く丘で琴を弾いていると 疲れ果てたようすの赤子を抱いた女が傍らで耳を傾けます。琴の音色に元気を取り戻した女はこう語り始めました。
「....夫がいくさに行ってもう1年になるの。でも きっと帰ってくる、この丘を越えて帰ってくる だからあのひとが行ってしまったこの場所で待ちつづける.....あなたも元の場所に行ってごらんなさい。奥さまにきっと会えるわ」......アラスモンはクライシーが姿を消した村に向かいます.....あんなにさびれ貧しく暗かった村が 見違えるように緑あふれるゆたかな歓びの村に変っていました。
村人たちはこの村を救ってくれた夫婦を忘れてはいませんでした。神々のように神々しくわかく美しかったふたり.....けれどアラスモンは髪に霜を置き、老いぼれやせさらばえていました。アラスモンはクライシーを見失った草地で身も世も無く泣き崩れました、すると琴の弦が震え、梢でクロウタドリが歌いはじめました。アラスモンはその旋律に聞き入り、震える指でそのうたを寸分たがわずひきはじめました。その歌こそ使い魔たちの呪歌だったのです。最後の音が空中に消えると同時にアラスモンの身体は崩れ落ち手から竪琴は滑り落ち.....息も絶え絶えのアラスモンの目に 探し求めた愛しいクライシー.....わかく美しく輝かしい昔日のままのクライシーがうつりました。
「クライシー、クライシー やっと会えたね」それがアラスモンの最後のことばでした。クライシーの心臓も砕け散りました。.......翌朝、村人たちは金のえにしだと紫のヒースの褥で抱きあって死んでいるふたりをみつけました。男は老い 女は青春のさなかにあるように見えましたが、ふたりの顔にはおなじように微笑みが浮かんでおりました。
........かいつまんでおりますので ぜひ実際に手をおとりになってお読みください。ヴィクトリア朝妖精物語は絶版ですが岩波少年少女文庫から出ているようです。この物語はケルトの民話でも昔話でもない モーガン夫人の書いたファンタジーですが ケルト的な雰囲気にいろどられています。ケルトといえば悲劇、これでもかこれでもかと主人公たちを悲しいさだめに突き落とすものがたりばかりです。3年前 クレヴィンの竪琴というものがたりを語りました。英雄コルマックと美姫エイリーの悲劇....歌を三ついれました。
アラスモンを語った古都さんは、ハープとソプラノ歌手の方とコラボなさったようです。もともと吟遊詩人....は竪琴を弾き 歌をうたい ものがたりを語ったのですが、それを三人でするのもおもしろい試みだなぁと思いました。日本でも そうでした....楽器を奏で 歌い語って遍歴したひとたちがいました。
楽器を自分の身体の一部になるまで習熟しないと その操作に囚われてしまってものがたりに集中ができません。昔ながらの語り部のように語り、歌い、奏でたいと思ったわたしですが、すでにビウエラをあきらめてしまいました。もっと若かったらあきらめなかったと思います。これからの語り手さんはどうぞチャレンジしてくださいね。ともあれ、アラスモンにひかされてちくま文庫を7冊頼みました。今日あたりから届くことでしょう。......残念なことに語り部となってから昔の読書子としての喜びは薄くなってしまいました....語りたいものがたりを探すのに鵜の目 鷹の目になるからです。 ただものがたりの世界に浸るその喜びのために読みたいものです.........窓の外ではクロウタドリならぬウグイスが澄んだ声で歌っています。
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