1960年代、日本が高度経済成長期に突入すると当時の鉄道事業者は増大する輸送量への対応と近代化が急務になり各社で車両の大型化や高性能車の開発が相次ぎました。関東地方最大手の東武鉄道ではこの時期日比谷線直通専用車である2000系電車が初の高性能電車として就役していましたが、更なる課題として多く残存している戦前からの旧型車両や昭和30年代の時点でも陳腐化が進んでいた戦後割り当てのの7800系列に代わる汎用通勤車の開発を計画しており、1963年に登場したのが8000系電車です。登場から1983年まで20年間も増備が続き、総勢712両という大所帯で国鉄を除いた私鉄の電車では最多数派となり未だこの記録は破られていません。その後2004年に伊勢崎線向けワンマン車の800・850系3両編成への改造のため付随車のサハが解体処分され、41年目にして初の廃車が発生しましたがこの時点でも600両以上が在籍していました。しかし、比較的消費電力が大きく老朽化も進行していることもあり、新形式の増備が進む2010年代からは編成単位での廃車が開始され、2009年度には伊勢崎線浅草~館林間、2015年に東上本線池袋~小川町間での定期運用を終了。以後はワンマン運転を実施する支線や本線末端区間を中心に運用されています。
越生線で運用中の森林公園研修区所属編成81119F。1979年以降に製造された編成はインフレナンバーに突入し、5桁の車番が付与されるようになりました。読み方は「クハはっせんひゃくのじゅうきゅう」です(他車種も同様)。基本設計が1960年代の電車にしては珍しく、前照灯がHID式に換装されており、近代的な表情を見せています。
亀戸線運用に就く2両編成8570F。同線は曳船~亀戸間を結ぶ東京都江東区・墨田区内の路線ですが、終日に渡り2両編成のワンマン車両による線内折り返し列車で運転しており、西新井駅から分岐する大師線と共通で南栗橋研修区春日部支所の所属編成が充当されています。今や抵抗制御車自体珍しくなりつつある東京都内で、40年以上前の車両が行き来する光景が日常的に見られるというのも中々凄く、マニア的には贅沢さも感じてしまいます・・・。
更新工事施行済みの車内設備。抵抗制御車では珍しく登場時より静粛性確保のため、主電動機点検蓋の設置は見送られました。1997年からはバリアフリー対策と共に最新形式の30000系にサービスレベルを揃えるべく、行先表示のLED化や車内案内表示器の新設が実施されましたが、2003年度からはそれらに加えて座席へのスタンションポール設置、一部窓の固定化やワンマン運転対応として自動放送装置、車外スピーカーなどの新設が追加を行っています。
戸閉装置は未改造ながら、鴨居部に新設されたLED表示器は30000系と同様のドアチャイムも鳴動し、各車両に千鳥配置とされています。
かつては日本の電車の最多両数を誇った103系に準えて「私鉄の103系」の異名を持っていた同形式ですが、現代では老朽化も進み、昨年には20000系改造の20400系の登場で宇都宮線で運用されていたバリアフリー対応ワンマン車から廃車が発生しました。今しばらくは支線でその活躍が見られるものの、高度経済成長期を支えた昭和の名車にも終焉の足音は確実に迫っているようです・・・。