石灰透明釉に他の材料を添加し、別の釉を作る方法を述べていますが、今回はマット(艶消し)
釉に付いてお話します。
1) マット釉とは、光沢の無い釉の事ですが、それには二つの種類と、三つの方法が
あります。
一つは、アルミナ成分を多くするマット釉で、他は、シリカ成分を多くする不熔性の
マット釉です。
一般に釉の中にアルミナとシリカ比率が1:7~11の時に綺麗な透明釉になります。
アルミナの成分を多くすると、マット釉になり、シリカの成分を多くすると乳濁釉に
なりますが、更にシリカ成分を増すと、乳釉はマット釉に変化します。
前者のマットは、釉の中に発生する微結晶による現象で、結晶の元となる物質を添加して
マット釉にする方法もあります。
後者のマットは、ガラス質が少なく、釉が熔けない不熔性のマットです。
いずれも、酸化焼成の方が、綺麗なマット釉になります。
三つ目のマット釉は、「結晶の種」とも言うべき材料を添加してマット釉にする方法です。
① 光沢のある透明釉の中に非常に小さな結晶が析出した状態のマット釉。
この結晶は釉の中は元より表面にも存在し、結晶に光が当たり、乱反射や拡散して
透明感がなくなり、艶消し状態になったものです。
ⅰ) この結晶粒は、釉に熔けていた結晶の種が、窯の冷却時に出現した物で、
最初から熔けずに釉に存在していた乳濁釉とは区別されます。それ故ゆっくり窯を
冷やした方が良い結果が出ます。 急冷では艶消しには成りません。
ⅱ) マット釉の中の微細な結晶は、規則正しく全体に分布しており、釉の表面は
極めて滑らかで、ビロード状の触感が得られます。
ⅲ) アルミナ成分を多く含む材料の釉。
a) カオリンマット釉:アルミナを主成分とするカオリンを添加した釉です。
カオリンの種類も多く、外国産の物もあります。朝鮮(韓国)カオリン、香港カオリン
AAカオリン(インドネシア産)、河東カオリン、中国カオリン等が市販されています
代表的なのは、朝鮮カオリンで、800℃程度で焼いた仮焼(かしょう)の物を
使います。
・ 多量にカオリンを添加すると、釉が光沢の無い粘土質になります。
ⅳ) シリカ成分を多く含む材料の釉。
a) 藁(わら)灰マット釉: 藁は珪酸(シリカ成分)を70~80%含みます。
藁灰は白萩釉の様な乳濁釉に使われますが、限度以上に添加すると、不熔性の
マット釉になります。
・ 合成藁灰: 天然藁灰に似せて人工的に作ったものです。天然のものより、
鉄などの不純物が少なく、粒子が均一で白さも均一になります。
天然の持つ雑味が少なく、面白味に欠けるとも言われていますが、一般的には、
合成藁灰が多く使われています。
② 光沢釉に微量の添加剤を加えると、マット釉が得られます。
ⅰ) マット釉にする為の添加剤。
a) 白マット:マグネサイトを5~15%程度添加する。(重量比、外割り)
マグネサイトの結晶作用で白マット状になります。添加量を増やす程、白さが
増しますが、20%以上になると、白い斑点が残ります。
一般に「白マット釉」と言われている釉です。
注: マグネサイトとは炭酸マグネシウムを主原料とする白い粉で、結晶作用を
起こします。多量に添加すると、収縮率を高め釉を「カイラギ」状にしたり、
釉切れを起こします。更に増やすと、釉が粘土状になります。
b) タルクマット釉。
タルク(滑石)を多量に入れて艶消し釉にしたものです。10~20%程度添加
して作る一般的なマット釉で、広く用いられています。少量の添加では逆に光沢が
出ます。
注: タルクは酸化マグネシウムを主原料とする物質です。マグネシア成分を含む
材料に、マグネサイト、ドロマイト等があります。
c) チタンマット釉、ルチールマット釉、ジルコンマット釉、錫(すず)マット釉、
亜鉛マット釉
・ チタンマット釉薬: 石灰三号釉に10%程度の酸化チタンを添加し、パール状に
輝く細かい結晶を作りだします。特別な焼成方法を行わなくても、安定した
強いマット釉になります。
・ ルチールマット釉: 酸化ルチールは金紅石(きんこうせき)と呼ばれ、鉄分を
含む酸化チタン鉱物です。
石灰三号に10%程度を添加すると、輝きのある艶消し釉になります。
鉄分の影響で、酸化焼成でクリーム色に、還元で青味かかったマットになります。
・ その他のマット釉も、ジルコン、錫、亜鉛 などを適量添加させ徐冷する事で
結晶が成長して結晶釉となり、マットになります。尚、マット釉にするには、
大きな結晶にしてはいけません。
d) 鼠(ねずみ)石灰を10~20%程度、透明釉に添加して、「半艶消し釉」を
作る事ができます。
10%程度までは、釉を熔かす働きをしますが、それ以上では、冷却時に小さな
結晶を生じ艶消し釉となります。
注: 鼠石灰の主成分は炭酸カルシウムです。
次回(鉄釉)に続きます。