1) 理想的な釉とは?
一般的に言われている、欠点の無い釉の条件には、以下の様なものがあります。
① 設定された温度で焼成すると、完全に熔け更に釉面が平滑な事。
② 釉面に気泡が出ず、焼成時や、作品使用時にも貫入が出ない事。
③ 素地と密に熔け合い、密着して剥がれず、使用時にも素地と同様に膨張と収縮を
行う事。
④ 熔けて流れ落ちず、作品の表面を均質で一様に覆う事。
⑤ 機械的、化学的抵抗が大きく、良好な耐久性を有するガラス質の事。
⑥ 制作時や使用時に無害である事。
しかしながら、上記条件を全て得る事は難しい事です、釉によっては上記条件を
逸脱した釉が求められる場合もあります。
例えば、貫入(かんにゅう、ひび割)や結晶、乳濁、流れ(流動性)の有る釉を求める
人もいるのは 事実で、工芸品のみならず、普段に使う器にも要求される事も、
珍しくはありません。
では本日の本題に入ります。
2) 貫入(かんにゅう)に付いて。
① 貫入とは単に、乳又は入(にゅう)と呼ぶ事もあり、釉の「ひび割れ」の事です
「ひび割れ」の大きさも千差万別で、肌理の細かい物から荒くて大きな物まで色々
あります。貫入の原因は、素地と釉との収縮率の差によって起ります。
即ち、素地よりも釉が大きく縮むからです。
窯の冷却時に素地より、釉の方が大きく収縮する結果発生します。
尚、貫入は、焼成後数日~数年後に突然発生する事もあります。
② 貫入を無くす方法には、以下の様な方法があります。
a) 素地を調節する方法: 素地の縮み率を若干大きくする。
基本的には、素地と釉では、釉の方が縮み率は大きいものです。
それ故、素地の収縮を大きくして、釉の縮みに合わせるのも、一つの方法です。
ここでは、釉について述べていますので、割愛し、詳細は後日述べたいと思います。
b) 施釉の方法を検討する: 濃い目の釉を厚く掛けると発生し易いです。
c) 窯の冷却スピードにも左右されますので窯焚きの方法を検討: 急冷する程
発生し易いです。
完全に冷却しない内(100℃以下)に窯出しを行うと、貫入が入り易いです
但し、窯の冷え具合は、窯の大きさ、壁の厚みにも関係します。
d) 釉を調整する方法: ここでは、釉の調整で貫入の発生を予防する方法を
述べます。即ち、窯の冷却時に素地より、釉の方が大きく収縮する結果発生します
ので、その対策を 述べます。
③ 貫入発生の問題点は以下の通りです。
a) 表面を覆うガラス質の表面が、「ズタズタ」に分割された状態になります。
その為、釉は機械的にも弱くなるだけで無く、茶渋や食物カス、洗剤のカズ等の
汚れがひび割れ部に進入し、作品の表面が汚れ、汚く着色する場合も多いです。
多くの場合、釉の表面のみでなく、素地の近くまで亀裂が入っています。
b) ガラス質の釉は防水性に優れ、更に、酸やアルカリ等に対して、抵抗性を
有します。(犯されない事)
それ故、ひび割れ部から、水漏れや黴(かび)を発生させ難いです。
3) 貫入を予防する。
基本的には、釉の収縮を少なくし、素地の収縮に近づける事です。
① 貫入を無くす一般的な方法は、珪石(珪酸)を増やし、熔融剤を減らす事。
注: 二酸化珪素は、全ての原料の中で、一番収縮が少ない物質と言われています。
熔融剤には、アルカリ元素とアルカリ土金類があり、その種類によって収縮率に
差がでますい。
・ アルカリ元素では、ナトリウム、カリウム>リチウム
・ アルカリ土金族では、カルシウム>ストロンチウム、バリウム、亜鉛華>マグネシウム
但し、手元の釉から、熔融剤を取り除くのは、不可能ですので、珪石(珪酸)を加える
事に成り ます。
② 釉の弾力性を増す方法。
収縮とは、お互いに引っ張り合いながら縮む事で、釉がゴムの様に弾力性があれば、
釉が引き伸ばされても、「ひび」が入らない事に成ります。
その様な材料として、錫(SnO2)、ジルコン(ZrO2、4%以上)、
チタン(Ti2、2%以上)が 有ります。
但しこれらは、乳濁釉にもなりますので、添加量に注意が必要す。
③ 素地と釉の間を中間層といいます。即ち、釉が素地の表面に食い込んでいる層で、
この層が 厚い程、素地と釉の緩衝材として働き、貫入を防ぐ事に成ります。
貫入のある釉に、硼酸を5~10%加えると、貫入を解消する事が出来ます。
これは、硼酸と水の混合物が素地に吸込まれ、素地を熔かす為、中間層が発達
すると考え られています。
・ 又、焼成温度を若干上げたり、焼成時間を長くする(ならし時間を長くする)と、
中間層が発達するとも言われています。
④ 釉掛けの厚みに左右される。
釉には、薄く掛けた方が発色や光沢が良い場合と、厚く掛けた方が良い場合が
あります。厚く掛ける程貫入が多く出ます。これは、素地に密着した釉は自由に
動けませんが、素地よりやや離れた釉には移動の自由が生じ、強く引っ張れ易く
なる為です。
4) 亀裂釉について。
以下次回に続きます。