ありがとう。あなたが来てくれて、本当にうれしかった。朝、10時前に会館に行くと、職員の人が「1件も問い合わせがないが…」と心配して声をかけてきた。「大ホールでやる時は大概、問い合わせがある。そちらはちゃんと声をかけているとは思うけど」と言う。朝早くあった電話は、「整理券がないけれど、満員になったら入れませんか」というものだった。これまでの実績から満員になるとは考えられないが、その時はスタッフやその関係者に立って見てもらうように頼もう。満員になってくれればいいがと勝手なことを思っていたところに冷や水である。
楽屋へ回ると、出演者の皆さんが準備を始めていた。舞台ではプロの照明屋さんが光の調整をしている。皆さんに挨拶して、スタッフが来るのを待つ。清掃のおばさんが「楽屋近くの駐車場に車を止められたら、いいですよ」と教えてくれる。おばさんは何かにつけて親切だった。楽屋裏の駐車場を使うことやホールの鍵やらで、会館の受付けにお願いすることが多かったが、受付けの女性たちは親切で丁寧だった。私が会館の正面玄関に置く看板を取り付けていると、次女の名前を呼び、「お父さんですよね」と声をかけてくる職員がいた。
聞いてみると娘が通っていた中学校の先生で、その娘が養護教諭として働いていた時の学校で一緒だったそうだ。「娘さんは美人で、利発で、仕事が出来る」とあまりに褒めてくれるので恐縮した。次女も長女も「仕事ができる」「機転が利く」「明るい」と一緒に働いた人から評価をいただくことが多い。「わがままなばっかりで」と答えてはいるが、そんな風に育ってくれたことが親としては嬉しいし、大人になった娘たちを誇りに思う。娘たちのおかげでこうした会館の職員のみなさんの対応も変わってきたのかなとまで思ってしまった。
午前11時に集合であったけれど、その前に全員が揃った。手順を説明して、すぐに作業にかかってもらう。正午を過ぎると、正面玄関前で人が動き出す。「チラシが欲しい」と若い女性が取りに来る。車には両親らしき人が乗っている。開場時間より1時間も早い12時半には玄関に並ぶ人もいる。すでに顔見知りの人たちが何人か別のところで待っている。早すぎるけれど、立たせておくのはあまりにも気の毒である。照明や録音録画、出演者の準備も出来ていた。「入ってもらいましょう」と決断する。
大和塾第23回市民講座『ひとりオペラ 異聞道成寺縁起』は、満員にはならなかったけれど、大勢の皆さんに来ていただくことが出来た。私の小学校の同級生もわざわざ名古屋から来てくれた。「5百人以上を集めるのは大変なことなのに、よく出来たね」と感心していた。彼はアンケートに答えて、「異聞道成寺縁起は想像以上の感動を得ました。箏と尺八とソプラノのハーモニーが絶品で、目からうろこでした。文化の日に、良き文化と出会えたことに感謝」と書いていた。私が初めてこの歌を聞いたのは、名古屋の電気文化会館のコンサートホールだったが、ぜひ、大勢の皆さんに聞いてもらいたいと思った。
その思いが実現出来て、ホッとした。打ち上げ会には出演者の皆さんは全員参加し、全ての皆さんがスピーチをしてくれた。嬉しくなって友だちと、2次会にまで行った。あなたが来てくれて、本当にうれしかった。