NHK学園で学んでいる80歳の女性の話を聞いた。彼女は東京生まれだが、両親と一緒に満州に渡り、大変な思いをして帰国した。平和な時代を迎え、これからは勉強が出来ると期待していたが現実は厳しく、17歳で結婚し、18歳で子どもに恵まれる。普通ならそれで平凡な日々を送って一生を終わる。けれども彼女は、勉強したいという気持ちを抑えることが出来なかった。
ラジオで英語の勉強を始め、英検の3級に合格するとすぐに2級に挑戦し、これも合格してしまう。とにかく前向きで、いつも何かにチャレンジしているそうだ。新聞は読むだけでなく、投書して、いくつもの欄に掲載されている。今度のNHK学園の論文も、これまでの自分の生きてきた道をまとめ上げたものだ。それが学園に認められて、東京での表彰に招待されることになったという。
そんな彼女が親しくしている近所の女性は、彼女が創作した童話を見せてもらった。「その童話は新美南吉の世界に通じるものがあったので、半田市が行なっている南吉の創作童話の募集に応募するといいわよ」と勧め、彼女は作品を半田市に送った。私も読ませてもらったけれど、『ゴンきつね』のように、動物と人間の会話が面白かった。人は年齢に関係ない、いつでも若い気持ちの人はいると思った。
その近所の女性が彼女の家の近くに住む親戚の家を訪ねた時、彼女のことを話題にすると、親戚の叔父さんは「ああ、あの人は出歩いてばかりいるから、家の中はぐちゃぐちゃだ」と言ったそうだ。それでその女性も、ボランティアで家を留守にすることがあるから、「私のことを言っているのかと思った」と苦笑していた。何にでも興味があって、何にでも前向きに取り組んでしまう、女性たちは多くなった。そういう女性たちは今、新しいまちづくりにも積極的だ。
ひっよとするとこうした女性たちの方が、定年退職して家に閉じこもっている男たちよりも、世間がよく見えているのかも知れない。領土と領海を守るのは国の務めだなどと男たちは偉そうに言うけれど、そういう意地の張り合いはケンカ以外に何も生まないことを彼女たちは見通している。「どのようにして仲良くしていくのか、そんなことも考えられない男は、いつまで経っても子どもから大人になれないのよね」と彼女たちは男の見栄をみている。