風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

DeepSeekの衝撃

2025-03-08 20:53:47 | 時事放談

 中国のAI開発ベンチャーDeepSeek(深度求索)が米国製に匹敵する性能を持つ生成AIモデルを圧倒的に少ない開発コストで実現したと主張し、アメリカのテクノロジー業界や株式市場に衝撃を与えて久しい。ベンチャーキャピタリストのマーク・アンドリーセン氏は、1957年10月4日のスプートニク・ショックになぞらえて、「DeepSeekのR1はAIにとってスプートニク・モーメントだ」と表現したものだ。しかし、アメリカを超えたわけではなさそうだから、むしろ「第二の新幹線」と呼ぶべきではないかと私は思っている。いったん技術が中国に渡ってしまえば、自家薬籠中のものとして、中国内はおろか、中国製「赤いAI」が一帯一路に乗せて世界中に拡散するということだ。

 その衝撃の余り、開発費用の内訳に疑問が呈され、いや性能はそこまで行かないとか、技術の盗用疑惑まで論じられた。ディスティレーション(蒸留)と言って、オープンAIのように、より洗練された強力な従来のAIモデルに、新しいAIモデルからの質問を精査させて、実質的に従来モデルの学習内容を移行させる仕組みで、これを使えば、大規模な投資と膨大な電力を費やして従来のAIモデルが生み出した果実を、それほどの対価なしに新たなモデルが獲得できるらしい。ある業界関係者によれば、AIの分野でこの手法はごく普通の技術だが、オープンAIを含めて近年、アメリカ企業が投入した先端的モデルで定められたサービス利用規約には違反するそうだ。

 そして何より中国共産党のバイアスがかかっており、どうやら個人データが中国共産党に流れることも判明した。R1に中国共産党の性格は?といった政治的な質問を投げかけても答えてくれないそうだ。そもそも同社のR1がトランプ氏の大統領就任日にぶつけて発表されたことが全てを物語る。春節明けの2月17日には、中国の習近平国家主席が主催する民間企業シンポジウムに、アリババのジャック・マー氏、テンセントのポニー・マー氏、BYDの王伝福氏ら大手IT企業の大物社長に混じって、ベンチャー企業DeepSeek社長・梁文锋氏も参加したということは、もはや一点の曇りもない。DeepSeekはアメリカ製AIの技術を安価に真似て、オープンAIが「APIサービス」と「サブスクリプションサービス」を提供するのに対し、DeepSeekは全てのモデルをオープンソース方式で「APIサービス」のほかに「カスタマイズサービス」「コンサルティングサービス」を通して、データの整理や分析などのサービスや、AI技術のトレーニングや認定プログラムを開催して企業や個人に教育サービスを提供し、中国共産党が推進する「AI+産業」政策と連動した教育ビジネスを展開するという、中国企業がAI武装するための、中国共産党お抱えのAIプラットフォーマーということだ。アメリカをはじめとするAIプラットフォーマーだけではなく、全世界の全産業の全企業がこの現実を覚悟しなければならないだろう。これを利用する人は個人情報が抜き取られ、世界中で認知戦が繰り広げられることを覚悟しなければならないだろう。

 創業者の梁文鋒CEOは過去のインタビューで中国企業の課題を赤裸々に語りつつ、AIモデルを「金儲けに使うつもりはない」と言い切っている。さもありなん。

 不動産不況で中国経済はピークアウトし、人口減少で先行きは明るくないと溜飲を下げていてもよいのだろうか。余ったEV在庫でヨーロッパや東南アジアをはじめ世界中の自動車産業を混乱に陥れたように、あくまで愚直に成長を求める中国共産党は、習近平の「新質生産力」の号令一下、EV以外にも全ての産業で世界を混乱に陥れようとしているかもしれない。

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ウクライナの行方

2025-03-01 10:13:04 | 時事放談

 トランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領との会談は不調に終わったようだ。トランプ氏は米国の軍事支援について「もっと感謝すべきだ」と不満を示し、ウクライナは和平交渉の「カード」を持っていないと述べたと伝えられる(読売新聞による)。ディール・メーカーの面目である(が、純粋なディールを外交に持ち込むなんざあ、誰が予想しただろうか 笑)。アメリカと欧州・ウクライナの間の不協和音を聞いていた人は、ある程度予想されたことと冷静に受け止めているだろう。最近のトランプ大統領はすっかりロシア寄りになったかのように報道されているせいだ。だが、ある人は、ロシア寄りなのではない、アメリカ寄りなだけだと言った。ちょっと衒学ぶった迷い言だが、至言だと思う。そこは1ミリたりともブレていないと思う。

 トランプ大統領がロシアの侵略を否定するような不規則発言をし、ゼレンスキー氏がトランプ氏はロシアが支配する「偽の情報空間」に生きていると返すと、トランプ氏はゼレンスキー氏のことを「選挙のない独裁者」呼ばわりして非難した。すっかり独裁者のように振る舞うトランプ氏からそのように呼ばれる筋合いはないと思うが(笑)、憂慮した欧州首脳のマクロン仏大統領やスターマー英首相が相次いでトランプ氏説得のために訪問した後、ゼレンスキー氏のことをまだ「独裁者」だと思っているのか尋ねられたトランプ氏は、「自分がそんなことを言った? 自分がそんなことを言ったとは信じられない」と応じたそうだ(BBCによる)。それで、冒頭の決裂に至るわけだが、相変わらずトランプ氏らしさが炸裂し、メディアを筆頭に私たちは振り回されている(笑)。

 学生時代に、ローマ法の講義を、ローマ法とはなんとマニアックなと思われるかもしれないが、半分以上は比較法にまつわる話だったので、面白がって聴講していた。数十年経ってなお記憶にあるのは、欧米人は100対100から交渉を始めて50対50で妥結するのに対して、日本人は0対0から交渉を始めて50対50で妥結するという比喩だった。本当はもっと緻密な議論だったかもしれないし、経年劣化して単純化されているかもしれないが、伝統的な日本人の奥床しさとして、概ね納得できるのではないかと思う。もっとも今の日本人は変わってしまったかもしれないが、少なくとも欧米人に関しては、その後のサラリーマン人生で欧米人と付き合うときには、忘れずに心の片隅に留めていたものだ。

 トランプ氏の交渉でも、同じことが言えるだろう。本当は50を望みながら、100どころか150とか200をぶちかましているのではないだろうか。そして150とか200がさも望んでいることだと言わんばかりに報道され拡散されている。実際には、本格的な交渉が始まったわけではなく、むしろプーチンを交渉の席に引っ張り出すために甘言を弄しているだけと見るのが妥当だろう。これは、ウクライナのゼレンスキー側に立つバイデン前政権には出来なかったことだ。君子は豹変する。君子とは到底言えないトランプ氏は見境いなく不規則に豹変する。

 そんなトランプ氏の発言の中に真実があるとすれば、これまで同盟国たる西欧諸国や日本がそれぞれ十分な役割(責任の分担)を果たすことなくアメリカが提供する安全保障にすっかり甘えて来たという事実だろう。そしてトランプ政権はウクライナを見捨てるのではなく欧州に応分の負担を求め、自らは中国にフォーカスするのだろう。以前、ブログ「あるリアリストのグランド・ストラテジー」で示されたように、そのために「反覇権連合(anti-hegemonic coalition)」なる同盟関係が必要になる、これは必ずしも「反中連合」である必要はなく、飽くまで「中国の覇権に反対する」意味であって、同盟に参加するのは、自由主義の日本であれ、共産主義のベトナムであれ、東南アジアの中のイスラム教政権であれ、政権の性質に関係がなく、とにかく中国の支配下で生きたくないのであれば、中国が意志を押し付けるのを阻止するべく、協力する、ということだろう。かつてキッシンジャー博士がリアリズムの観点から旧ソ連を包囲するため共産主義の中国と手を結んだように、今、中国を包囲するために権威主義のロシアと手を結ぼう、少なくとも中国とロシアの結託を、それが心から気を許しあったものではないにしても、防ごうとしているのではないかと思う。それは必ずしも1938年のミュンヘン会議でヒットラーに宥和的だったためにその後の増長を招いたというようなものではないだろう。そうだとしても、戦後秩序の基盤として培われて来たリベラリズム、すなわち法の支配や自由を揺るがしかねない危機的な状況であることに変わりはない。

 トランプ1.0の米朝交渉は肩透かしに終わったが、今回の米露交渉は大統領選で一種の公約であるかのように豪語していたものであり、トランプ氏の意欲は十分だ。歴史に残るであろう今後の交渉を興味深く見守りたい。

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トランプ2.0の一ヶ月

2025-02-22 09:42:28 | 時事放談

 トランプ氏がアメリカ大統領に就任してから一ヶ月が過ぎた。想定以上に嵐のように騒々しい日々が続いて、一日としてメディアを賑わせない日はない。あの方は、世間の注目を浴びないと気が済まないようだ。就任前に大統領の公式写真とやらが公表されたとき、「厳しい表情でカメラをにらみつけるような視線を送って」おり、「『屈しない』との印象を打ち出したいものとみられる」と産経新聞は伝えた。まさに何かに憑かれたように、私たちが当たり前と思ってきた常識、既存メディア、既得権益に挑戦し続けている。それは世上に言われる通り、トランプ1.0ではプロフェッショナルな政治家や軍人が要所に配置され、暴走の歯止めになっていたが、トランプ2.0では忠誠心を基準に選ばれた提灯持ちばかりだから、やりたい放題なのだろう。人は立場が変われば、トランプ氏ではなく国家に忠誠を尽くすものだと私は微かに期待していたが、ものの見事に裏切られた(苦笑)。

 昨日の日経によると、大統領選で掲げた公約の5割超に着手し、署名した大統領令(覚書や布告を含む)は100本を超え、第二次大戦後で最多とみられる、という。当初、就任後100日で100本と言われていたように記憶するが、いくら中間選挙までの時間との勝負とは言え、怒涛の勢いだ。もっとも、ほぼ無条件でアメリカ国籍を与えるという、憲法でも保障された出生地主義を大幅に制限しようとするなど、大統領の権限を超えるとして訴えられているものもかなりの数に上るらしいので、どうなるかは見通せない。アメリカの民主制度に期待するしかない。

 さらに公約に掲げていなかったが、これまでの政権の方針を覆すような刺激的なことまでやってのける。パナマ運河を奪還するとか、グリーンランドを買収するとか、パレスチナ自治区ガザを所有して開発するとか、口だけ番長にしても、まるで不動産ビジネスを手掛けるマフィアさながらだ(爆)。とてもアメリカ大統領の威厳も上品もあったものではない。その19世紀的な発想は、ロシアのプーチンのことを批判できなくて、これも世上に言われる通り、マッドマン・セオリーを地で行っているのだろう。どこまで本気なのかと訝るが、本気だと見せることがミソで、周囲が大騒ぎすることで却って現実味を増し効果を発揮するというパラドックスの世界である。そんなバカな・・・と一笑に付すのがトランプ対策としては正解なのだろうが、今のところトランプ氏が望む通りの展開である。

 ウクライナ戦争の仲介に至っては、ゼレンスキー大統領を「選挙なき独裁者」と糾弾し、「迅速に行動しなければ、国は残らないだろう」などと脅して見せた。戦争で苦境に陥るウクライナの足元を見て、軍事支援の見返りに同国のレアアース供給を求め、渋るゼレンスキー氏を脅す構図である。あろうことか国際犯罪者プーチンの主張を代弁するかのような言い草は、正統な近代西洋の価値観を体現したバイデン前政権を思い出すまでもなく、狂気の沙汰である。これも、彼一流のディールで、世間はトランプ氏がプーチンとディールするものと思い込んで、本人もその気でいるのは彼の勇み足で、目立ちたがり屋の悪い癖だが、「仲介」なるものの任に当たる以上、世間(西洋世界)が味方と見做すウクライナともディールする冷厳なる立場にとどまる必要がある。それが出来なかったから、バイデン前政権は仲介の任に当たることが出来なかったし、理念やら価値観(たとえば力による現状変更は許さないとか、ヨーロッパの安全保障のことなど)を理解しそうにない現実的なトランプ氏だからこそ出来るのではないかと思わせる。本来は、トランプ氏本人も誤認しているような「ロシア対アメリカ」のディールではなく、もとより西洋世界が望む「ロシア対ウクライナ+米・欧」でもなく、あくまで「ロシア対ウクライナ」の仲介である。第三者的な立場を守り、当事者双方ともに失うものがあり、痛みを感じて満足しないが、今の状態を続けるよりはマシだと思わせて受け入れさせることが出来るかどうかにかかっているが、プーチンは兵の損耗を気にしない独裁者で、欧米による制裁下で経済が痛もうが中国・イラン・北朝鮮の枢軸から支援を得て、時間は必ずしも味方しないわけではない状況を作り出して、妥協する気配がなく、実際には妥結に至るのは難しそうだ。

 こうして見ると、私たち日本人を含めて、余りに近代西洋的でナイーブであったことに気づかされる。ロシアをG7に復帰させてG8にするなんざあ、正気の沙汰かあ!? と思うが、振り返れば、ナポレオン戦争で混乱したヨーロッパを安定させるため、イギリス・ロシア・オーストリア・プロイセンの四大国が同盟してフランスを包囲する一方、ウィーン会議終了後には、フランスを含む五大国で定期的な外交会議が開催されたという史実がある。所謂バランス(勢力均衡)によるコンサート(協調)で、まがりなりにも一世紀に及ぶ安定した秩序がヨーロッパに形成された。いくら引越し出来ない隣人とは言え戦争犯罪人のロシアを引き入れるのは感情的に認め難いが、それは私たちがリベラルな風潮に慣れ親しみ過ぎたからであろう。トランプ氏の登場は、とかくWOKEとかLGBTQとか移民などの人権や環境の問題で行き過ぎたリベラルな風潮を、多少なりとも現実に揺り戻す動きと言えなくはない。200年の昔、フランスのように宗教的・文化的・歴史的に価値観を共有するヨーロッパ社会の一員だからこそ出来たことが、ロシアという(さらには中国もそうである)やや異質な国を含めた国際秩序を形成することができるのか(現実的ではありつつも理念を捨てることなく、というのは我が儘だろうか・・・)、それとも権威主義対自由民主主義対グローバルサウスと言われる三極の対立しつつ共存する構造が続くのか、私たち自身の真価が問われている。

 救いがあるのは、トランプ氏も人の子、世間(とりわけアメリカ人)の人気や株価を気にするところだ(笑)。調査会社ギャラップによると、支持率47%はトランプ1.0のときの45%を上回るものの、不支持率48%は史上最高だそうだ。願わくは、誰かがこっそりトランプ氏の耳元で、リアル・ポリティークに傾き過ぎるようじゃあ(近代西洋的価値観を体現する)ノーベル平和賞が遠のくぞ・・・な~んて囁かないかなあ(嘆息)。

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日米首脳会談

2025-02-11 12:46:12 | 時事放談

 人たらしの安倍元総理と違って、人付き合いが余り得意そうには見えない石破総理がトランプ大統領と上手く付き合って行けるのか、今風の言い方をすればケミストリーが合うのか、多くの日本国民が固唾を飲んで見守った(と思う)日米首脳会談だったが、トランプ大統領が気持ち悪いくらいに好意的に迎えてくれて、徹底的に予行演習した甲斐もあったのか、「まずまずの滑り出し」(朝日新聞)となったようだ。

 ケミストリーということで言えば、石破さんの最大の武器は、日本人には珍しいプロテスタントで、トランプ氏と同じ長老派に属することだろう(舛添要一さんからの請け売り)。知人の自衛隊の元幹部が石破さんと懇意なので、訪米の際には是非、宗教的行事を演出してはどうかと提案したことがある。アメリカは当然、石破さんの周辺は調べ尽くしてトランプさんにインプットしているだろうから、トランプさんが気持ち悪いくらいに好意を見せたのはそのあたりの事情によるのかもしれない。

 また、米国が仮に日本からの輸入品に対して関税を引き上げた場合に報復措置をとるかどうか尋ねられた石破さんは、「『仮定のご質問にはお答えをいたしかねます』というのが日本の定番の国会答弁でございます」と回答を避け、日本の記者の反応は冷淡だったが、米国の記者はジョークと受け止めて大きな笑いが起たそうだ。トランプ氏も「名答だ。ワオ!彼はよく分かっているね」と石破氏の回答を気に入っていた(毎日新聞)という。用意周到の賜物だろう。

 他方で、椅子のひじ掛けに左ひじを置いたままトランプ大統領の握手に応じて、お行儀がよろしくないと、またしてもケチがついた。確かに、威風堂々の政治家然とした、というのが染みついているのだろう、海外慣れしておらず、洗練されているとは言えない、不器用なほどに勿体を付けた石破さんの立ち居振る舞いは、日本ではともかくとして、海外では(海外の、と言うより中国人民の目を気にする)習近平くらいしか見当たらず、世間の常識から外れているように見える。

 贈り物に、このあたりの性格が表れているように思う。石破さんは地元・鳥取市に本社がある「人形のはなふさ」の兜飾り「亜麻色縅満天金星兜」(16万8千円也)を選んだ。安倍さんが金色のゴルフクラブを贈呈したのとは対照的だ。石破さんには伝統的な政治家らしい格式ばったものを感じるのに対して、安倍さんにはフランクでプラクティカルで、トランプさんのような奇人変人の懐にも飛び込む、ある種の奔放さを感じる。しかし、それは飽くまでスタイルの違いに過ぎない。

 また、かつての宿敵・安倍さんのレガシーに頼ってばかりと揶揄する声や、共同記者会見の後にトランプ大統領が握手もせずに立ち去ったのを不安視する声もあがった。実際に、安倍昭恵さんの電撃訪問には絶大なる効果があっただろうし、天皇陛下の祝電は、国賓として来日した方への当然のご挨拶だったのかもしれないが、やはり共和国にとって皇紀2685年になんなんとする皇室の威光はハンパではないだろう。この際、使えるものは立っている親だろうがなんだろうが使って、日本の力を総動員し、この難局・・・ヨーロッパで軍事大国が仕掛けた戦争が続き、中東で権力の空白が懸念され、東アジアでパワーバランスが崩れつつある・・・を乗り切り、何かと日本の政治家やメディアが異常に気にする日米関係のみならず、地域の、ひいては世界の秩序を守るために、石破総理のご活躍に期待したいと思う。

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イチローの米国野球殿堂入り

2025-01-27 00:31:01 | スポーツ・芸能好き

 イチローがアジア人として初めて「殿堂入り」を果たした。アジア人として、とは何とも奇妙な形容だが、移民社会とは言え人種差別が絶えないアメリカで、白人・黒人・ヒスパニック系が多く活躍する野球を国技とするアメリカの、野球の聖地であるニューヨーク州クーパーズタウンのアメリカ野球殿堂博物館(National Baseball Hall of Fame and Museum, HOF)に、はるばる太平洋を越えて初めて「殿堂入り」したのだ(ビジネスに身を置く私に“アジア人”は、アジアで地盤沈下が続く日本の卑屈さが伝わって、当初、拒絶感があったが 笑)。日本人としてこれほど名誉なことはない。報道記事を渉猟しながら、何度、目頭を熱くしたことだろう(爆)。黒人リーグ野球博物館長は、「黒人初の大リーガーになったジャッキー・ロビンソンは、失敗すれば黒人リーグが否定される責任を背負っていた。イチローも日本の野球に対する懐疑的な見方を覆した」「二人は失敗を許されなかった。逆境をはね返し、その誇りを共有している」と、イチローの殿堂入りを祝福してくれた。

 昨日、同博物館で行われた記者会見では、イチローが敬意を払う博物館に8度目の訪問にして「ホール・オブ・フェーマーとして戻って来られたこと、大変光栄に思う」と喜びを語った。

 振り返れば、メジャーでMVP、首位打者、年間最多安打、10年連続200安打、通算3000安打など数々の金字塔を打ち立てただけでなく、そもそもイチローがメジャーデビューしたのは27歳の時で、そこから3089本もの安打を積み重ねたのは驚異的で、更に野球ファンとして言わせてもらえば、足があるから単打で出塁しても得点圏に塁を進めて長打並みになり、守備ではレーザービームと呼ばれた美技が試合の流れを変えるほどのインパクトがあり、野球のスリリングな醍醐味を味わわせてくれたのだ。「殿堂入り」は当然視され、マリアノ・リベラに続いて二人目、野手として初めての「満場一致」さえ期待されたが、デレク・ジーターと同様、400前後とされる投票で1票足りなかった。選考対象はMLBで10年以上プレーした選手の内、引退後5年以上が経過した選手で、かつて日本人対象者が二人いて、野茂(英雄)は2014年に1.1%の6票、松井(秀喜)は2018年に0.9%の4票にとどまり、5%に届かずに僅か一年でリストから消えた(得票率5%を超えると次年度の審査・選考に持ち越され、10回目(2014年までは15回目)までに75%の得票が得られなければ11回目からは候補から外される ~Wikipedia)。メジャーで活躍するだけでも偉業で、殿堂入りすれば言葉に困るほどの偉業なのに、イチローは資格取得一年目に99.7%の高得票率で易々と達成したのだ。かねてイチローの記録は長打力重視のアメリカ野球で過小評価されてきたし、インタビューの気難しさを根に持つ記者がいてもおかしくないし、アジア人を嫌う人だっているだろう。松井は「日本の野球にとっても歴史的な日になったと思う」と讃え、本人は「1票足りないというのは、すごく良かった」「しかも、(デレク・)ジーターと一緒ですから」と、イチローらしく前向きに捉えた。

 「足りないものを、これって補いようがないんですけど、努力とか、そういうことじゃないからね。ですけど、いろんなことが足りない、人って。それを自分なりに、自分なりの完璧を追い求めて、進んでいくのが人生だと思うんですよね。これとそれは、別の話なんですけど、やっぱ不完全であるというのは、いいなあって。生きていく上で、不完全だから進むことができるわけで、そういうことを改めて考えさせられるというか、見つめ合えるというか、そこに向き合えるというのは良かったなと思います」(本人談)

 トヨタは、会長付特別補佐に就任しているイチローを祝福する全面広告を日経などの主要紙に出した。「業務内外を問わず全国規模の受賞の場合、所属の本部長より表彰」「ねぎらいとして表彰状と商品券3万円分を渡す」というしょっぱい規定だが、規定は規定として、「出社するときに上司である私から表彰状と3万円分の商品券を渡します」と告げ、「私も一応“会長”ですから」と、あらためてさらなる報奨を人事部と相談するとしつつ、「でもトヨタはケチな会社なので実現できても現物支給かな…イチローさんにふさわしい”世紀の現物支給”を考えておきます」「次に出社する日を連絡ください」と呼び掛けた。「世紀」なので、トヨタの最高級車「センチュリー」で、2023年に発売されたSUVタイプ(価格25百万円~)ではないかと噂されている。結果として日本ブランドを高めただけでなく、その過程で一途に品質を極めて来たイチローへの共感と敬意の表れだろう。

 Google Mapによれば、かつてボストン郊外に住んでいた家からアメリカ野球殿堂博物館まで238マイル(383km)、ほぼ真西に車で4時間弱の行程で、駐在員仲間で高校時代に野球部だった知人は訪れたが、小学校のクラスメートとチームを作ってリトルリーグを相手に遊んでいた程度の私には縁遠い存在だった。西海岸に引っ越してから、ブリュワーズ時代の野茂を、サンフランシスコの旧名キャンドルステック・パーク(3Comパーク)で応援したことがある。この球場は野茂がデビュー戦を飾ったところでもあり、その試合は村上雅則氏の解説によって日本で衛星放映され、その村上氏もまた35年前に日本人初のメジャーリーガーとしてこの球場で活躍していたご縁がある。当時はマーク・マグワイアとサミー・ソーサの本塁打争いが話題となり、イチローがデビューした2001年にはバリー・ボンズがシーズン73本の本塁打記録を打ち立てるなど、大味な印象がある。そんな中でイチローの野球は良くも悪くも注目を集めた。残念ながらナマで見たことはなかったが、イチローの一挙手一投足をリアルタイムで追うことが出来た幸運を思う。

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