風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

アジアインフラ投資銀行

2015-03-31 23:18:23 | 時事放談
 アジアインフラ投資銀行(AIIB:Asian Infrastructure Investment Bank)が注目されています。一週間ほど前のロイターは、「2015年はのちに、中国の小切手外交が到来した年として歴史学者に記録されるかもしれない」と書きたてました。「日・米が主導するアジア開発銀行(ADB)では賄いきれない増大するアジアにおけるインフラ整備のための資金ニーズに、代替・補完的に応えるということを目的として、中国が設立を提唱し」(Wikipedia)、年内の設立をめざすAIIBに、今月12日、主要7カ国(G7)で初めてイギリスが参加に名乗りを上げたのに続き、16日にはイギリスの抜け駆け(!?)を不満とするドイツ、フランス、イタリアも相次いで参加を表明し、更にルクセンブルクやスイス、26日にはかねてよりアメリカの安全保障の傘の下にありながら中国経済の磁力に抗えない韓国、28日にロシア、ブラジル、29日にオーストラリアまでもが参加を表明するに及んで、依然、態度を保留している日本政府に対して、「バスに乗り遅れるな」式の懐疑的な見方が広がっています。
 イギリスにとって中国を含むアジアでの金融ビジネスは重要であり、ドイツにとっても同地域での自動車産業は重要であり、結局、自国の商業的利益が外交・安全保障政策に優先する現実が浮き彫りになったと皮肉っぽく語られます。東南アジア諸国が、大国・中国の磁場に引き寄せられるのであればまだしも、西欧諸国までもが、アメリカの反対を押し切り、雪崩を打って中国主導の対米対立軸に参加表明したことの意味は決して小さくないことでしょう。
 そんな下心はオブラートに包み隠し、21日付の英・エコノミスト誌は、アメリカに対して、AIIB、更には加盟を表明する同盟国に対して寛容であるべきだと主張する根拠として、AIIBの資本は最終的に500億ドルからせいぜい1000億ドル(約12兆円)になる見通しであるのに対し、アジア域内でのインフラ投資の需要は、猛烈に進む都市化の影響で、2010年から20年までの10年間で8.3兆ドル(約1000兆円、ADBなどの試算)と桁違いに大きいこと(つまりIMFや世銀やADBの資源でも不足しており、これらを中心とする体制がすぐに崩れることは考えられないこと)、また、透明性に欠けると批判される中国の融資基準に関する懸念に対処するための最善の方法は、外側から非難することではなく、AIIBに加盟して内側から改善することを挙げています(更にはADBや世銀やIMFなどの既存の金融機関を改革する方が望ましいとしても、それに抵抗し不可能にしているのはアメリカ自身ではないかと批判しています)。25日付の英・フィナンシャル・タイムズ紙も、同様の批判に加え、途上国に長期資金が大量に流入すれば世界経済は恩恵を享受すること、中国の経済発展は有益であり不可避であって、そのために必要なのは賢明な配慮だと、たしなめています。
 確かに、地理的に中国から離れていて安全保障上の脅威を感じることのない、むしろ経済的恩恵に与かりたい欧州諸国にとっては、その通りなのでしょう。ドル基軸体制に真っ向から挑戦し、先ずは基軸通貨であるドルを土台にして中国主導のシステムをつくり、いずれ人民元基軸体制を構築しようと野心を抱く中国は、アメリカにとって面白かろうはずはありませんが、しかし、アメリカをはじめとする国際社会は、TPPにしても環境問題にしても、台頭する異形の大国・中国を「囲い込む」のではなく、「責任あるステークホルダー」になるように求めて「関与する」政策を取ってきたのは事実であり、英・エコノミスト誌や英・フィナンシャル・タイムズ紙の主張は言い訳がましいわけではなく、正論です。
 では、やはり「バスに乗り遅れない」のが良いのか。
 ニューズウィーク日本版3/31号で、ミンシン・ペイ米クレアモント・マッケンナ大学政治学教授は、中国政府が使う「新常態(ニュー・ノーマル)」というレトリックを見る限り、中国共産党の指導者たちも、中国経済の高度成長期が終り、低成長に入ったという現実をようやく受け入れていると思って間違いない、ただこのレトリックを鵜呑みに出来ない理由として、中国経済は「過剰債務」(マッキンゼー報告によると中国の債務残高は、昨年、GDPの282%に達したらしい)と重工業を中心とする「過剰生産能力」(不動産の供給過剰も含む)の2つの短期的なリスクに直面し、対処を誤れば大幅な景気減速に繋がりかねないと警鐘を鳴らしています。とりわけ債務の大半は、地方政府や国有企業や不動産開発業者などの返済能力の乏しい借入主体が抱えていることを問題視しています。
 AIIBは、中国のそんな国内事情を反映し、外に投資機会を求めるものと見ることが出来ます。一連の動きによって、米国の威信に傷がついたことは間違いありませんが、中国と、西欧諸国やロシアやブラジルやアジア諸国とて、所詮、同床異夢ではないのか。少し冷静に眺めてみる必要があるように思います。
コメント
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