風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

東レも品質不正

2017-11-29 00:18:04 | ビジネスパーソンとして
 表題は、今日の日経・夕刊一面記事に付されたものだ。サブ・タイトルに「子会社、データ改ざん」とある。記事を読んで、つくづく考えさせられた。
対象製品は、自動車関連メーカーなど国内外の13社に供給していた「タイヤコード」といわれる自動車用タイヤの繊維製補強材や自動車用ホース・ベルトの3品目の補強材で、2008年4月から2016年7月まで(とは長期にわたるが、僅か、と言っては怒られそうな)149件、約400トン(対象額は1億5千万円)について品質検査のデータを書き換えていたという。改ざんと言って、どれほどのマグニチュードなのか、新聞を二度読んで、この程度で!?と驚きを隠せなかったのは、「タイヤコードなどの強さを示す『強力』が258ニュートンという数値が出ていたが、顧客と契約した260ニュートンに改ざんしていた」というのだ。実に0.8%にも満たず、私のような文科系の素人目には誤差の範囲に思う。顧客の同意があれば規格外の製品でも出荷できる「特別採用(トクサイ)」を悪用したもの、「トクサイ」とは不適格製品の取り扱いの手法で、顧客が要求した品質ではないが不良品とまではいえない場合に、納期や数量を勘案すれば、誤差の範囲として取り扱ったほうが得策であることから、最終製品の品質に影響を与えないことを前提に、顧客に許可をもらい出荷するものだという。今回も、顧客に許可を貰う手間を惜しまなければ問題にならなかったように読める。
 それにしては日経はでかでかと「品質不正」とセンセーショナルに書きたて、記事本文にも「日本のものづくりへの不信が強まりかねない」と書いた。神戸製鋼所、三菱マテリアルの子会社3社に続く大手企業グループ会社による不祥事は、確かにショッキングだ。しかし法令違反でもなく、どうやら安全にも影響しないのに、大袈裟ではないか。関係者はどう見ているか、日経電子版によれば「東レのライバル企業の幹部に、不正を好機として商権を奪う自信はあるかとたずねると『ありません』と即答された」とあり、また「三菱マテの取引先の中堅社員は『不正があっても品質は世界最高』と話す」とある。中国あたりでは、ざまあ見ろ以前に、この程度で騒ぎたてることに却って驚いているのではないだろうか。
 いくつかポイントがある。
 今日の記者会見で、昨年7月に不正を把握していたにも関わらず、発覚から時間がかかったのは何故かと問われた東レ社長は、「法令違反や安全に影響する場合は公表するが、今回は安全面に影響はないと判断した。先ずは顧客への報告を優先した」と答え、「顧客との間での取り決め(を巡る問題)なので、公表する必要はないと考えていた」と説明したという。従来なら内々で済ませてきた問題とうかがわせる。企業人としては良く分かる理屈だが、あらためて振り返るに、社会的責任の視点が欠落しているのだろう。神戸製鋼の問題のときにも、素材・部品メーカとして社会への影響が大きいと言われた。つまり直接の顧客との関係にとどまらず、その先には最終顧客がおり、従って直接の顧客との約束違反は、最終顧客との約束違反でもあり、社会を騙したことになる・・・規範意識の欠落が指弾されていると考えるべきなのだろう。
 公表に至ったキッカケも象徴的だ。今月3日にネットの掲示板で、東レでもデータ改ざんがあるとの書き込みがあり、「噂として流れるよりも正確な内容を説明すべきだと公表の準備を進めてきた」といい、その上で「神戸製鋼所や三菱マテリアルなど(で相次いでデータ改ざんが発覚し)、皆さんが品質問題に対して関心があった」のも公表を後押ししたという。ネット社会は、やや神経質に過ぎる気がしないでもないが、もはやそうは言っておれない、そういう時代なのだろう。
 経団連の榊原会長と言えば東レのご出身(現在、相談役)で、昨日の記者会見で三菱マテリアルグループの不正問題に関して「日本の製造業に対する信頼にも影響を及ぼしかねない深刻な事態だ」と指摘していた矢先の不正発覚となったのだから、なんとも皮肉だ。
 ESG投資などと言われて久しいが、E:Environment(環境)、S:Social(社会)、G:Governance(企業統治)はどこか遠い世界のキャッチフレーズではなく身近な問題なのだと、恥ずかしながらも認識をあらたにした次第である。
コメント
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